やっぱり僕には無理だったんだ…
なんだろう、このすごくモヤモヤした気持ちは…
神姫なんて苦手な僕だったけど、こうして神姫バトルで負けてしまうとなんだかとても悔しい気持ちになる。
「そんな落ち込まないで…ね?」
神姫センターからの帰り道、ちまりちゃんはずっと僕を励まし続けてくれた。
「ちょっとあんた、初バトルに負けたくらいでまたおかしな事とか考えたりしないでよね?」
「そんな事したら、ちまりがすごく悲しんじゃうよー」
僕の性格を十分熟知している姫子さんとアウラさんの二人の神姫から、思い切り釘を刺された所でちまりちゃんと別れた。
「お母さん、ただいまー!」
ちまりちゃんの元気な声が、家に向かって歩いている僕の耳に大きく響いた。
お母さんが帰ったら迎えてくれるなんて、なんて羨ましい事なんだろう…
さっきの星夜くんとのバトルの事もあって、僕はさらに落ち込む。
体をげんなりさせながら歩く僕に、ついさっき僕の神姫となった双子がようやく口を開いた。
「さすがに慣れない武器じゃ、ぼくたちも勝てないよ…」
「ごめんなさいね、マスター…次こそはお姉さまと必ず勝利を勝ち取りますから」
白髪の小さい姉の方が、僕の左の肩で僕と同じようにげんなりしていた。
その隣の白髪の大きい方は、げんなりとした小さい姉の肩をしっかりと抱いている。
「ごめん…僕のせいで…」
僕の口から意外な言葉が出た。
神姫に謝るなんて日がくるなんて夢にも思わなかった。
しかし、彼女たちはいる…僕の神姫として。
僕をマスターと呼んでくれる二人には、素直にちゃんと謝らないといけないと思った。
きっとこんな僕の姿を父が見る事があるのなら、かなり嬉しそうな顔で笑うんだろう。
神姫バカな父だから…きっと僕にも自分と同じようになって欲しいと望んでいるはずだ。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
聞き慣れた声を聞いて、ようやく僕は自分が自分の家の玄関口まで来ている事に気付いた。
声をかけてきたのは、庭師のおじさんだ。
「ただいま…」
僕は小さくそう言うと、家の大きな扉を開けて家に入った。
「わぁ…これはすごい広いお家だね!」
「ふふ、お姉さまが元気を取り戻されたようで何よりです」
僕の肩に乗っていた、白髪の双子はさっきまでの落ち込みが嘘だったかのように、僕の家について語り合っている。
いつものように声をかけてくるメイドや執事たちを無視して、一直線に僕は自分の部屋に向かった。
「はぁ…今日はものすごく疲れた…」
今日一日でいろんな事がありすぎて、僕の頭は混乱と疲労でかなりめちゃくちゃになっている。
とりあえず、学校用の鞄を床に投げすて、白髪の双子を僕の勉強机の上に下ろした。
「ちょっと、まだ落ち込んでるわけ?」
「お姉様、マスターは疲れておられるようですから、あまりキツイ事は…」
腕組みして僕をじっと睨みつけている小さい方は、前髪で隠れていない方の目をかなり吊り上げてイライラした様子だった。
そんな姉をなだめる大きい妹の方は、緑色の瞳を細くしてにこやかな表情で姉だけを見ている。
「そうだっ、そんな事よりぼく達に早く名前をつけてよ!」
小さい姉の方はさらにイラついた様子で、片足の先をパタパタさせている。
「名前…かぁ…」
そういえば、この二人は僕の神姫なのに、まだ名前がなかった。
僕は慌ててさっき投げ捨てた鞄の中から、S.Projectの局長さんからもらった資料を取り出しとりあえず読んでみる。
「白魔型スノーフレークねぇ…」
その資料にはかなり細かく、二人の説明がつらつらと書かれていた。
そして、かなり分厚い。こんな重いのを持ってたから、さらに僕の落ち込みようがひどかったのか…
「あのさぁ、さとる…ぼくはありきたりな名前なんて嫌なんだからね!」
「お姉さまのおっしゃられるありきたりと言うのは、白魔だから白とか、スノーフレークだから、雪という名前は嫌だという意味です」
頬を膨らませて、僕にぷいっと顔をそらせている小さい姉の言葉に、大きい妹の方がいちいち補足を入れる。
「ありきたりは駄目って事かぁ…」
疲れきった僕の頭では、その案を潰されてしまうと、他に何も出てこない。
そんな時、この家内での連絡用の液晶パネルにメイドの姿が映った。
「悟さま、ご夕食のステーキの味つけはいかが致しましょう?」
液晶パネルに映る、ピンク髪のメイドは、毎度のごとくどうでもいい事を僕に聞いてくる。
「味付けはいつものでいいよ、塩でいいから…あと、ミルクティーには砂糖を多めにね」
次の質問をされる前に、先に答えを言っておこう。
このメイドはかなりしつこいから、一回で全ての答えを出さないと僕の精神力が持たない。
「わっ…こんなとこに人が…!」
「お姉さま、それはただの液晶パネルです」
液晶パネルに表示されたメイドに、いちいち驚く小さい姉。
なんだか可愛いなぁと思いながら、僕はさっきの悩みをまた悩みだした。
「雪…白い…粉雪…白い粉…そうだっ!」
急に僕の頭の中がすっきりして、双子の名前がすっと浮かんできた。
「君たちの名前、決まったよ!」
「何、なになに?僕の名前はどうなるの?」
「お姉さまの名前、すごく気になります…」
僕の大きな声に、勉強机に備えつけられた液晶パネルの前にいた二人が走ってやってくる。
「小さい方が塩で、大きい方が砂糖だ!」
「えぇぇーー!」
二人の呆れたような声と、ずでっと転ぶ音が聞こえた。
「日本語じゃあれだけど、フランス語ならいいと思うんだ」
その僕の言葉に転んでいた二人は起き上がり、ごくっと息を飲んで言葉の続きを待っている。
「小さい方がルセル、大きい方がシュクレ…なんてどう?」
僕は恐る恐る、頭に浮かんだ言葉を吐き出す。
二人が黙ったままなのが恐い。
一分ぐらい経っただろうか…二人はまだ固まっている。
「やっぱりこんな名前じゃ駄目かな…」
沈黙に堪えられなくなった僕は、かなり細々とした声でこう呟くしかない。
「ううん、全然いいよ!ありがとう、さとる!」
「お姉さまにぴったりの名前…私の名前も素敵なものをありがとうございます!」
黙っていた二人が、顔をにっこりさせて抱き合っている。
シュクレの大きい胸に埋まっている、小さいルセルは苦しそうだ。
「ふふ…私の言葉がヒントになりましたか?」
液晶パネルから声がした…まさか、今のやり取り全部見られていた!?
僕は再び頭が真っ白になる思いがした。
「悟さま、ご夕食の用意ができましたので、ルセルさんとシュクレさんと一緒に今日は研究所の方まで来て頂けませんか?」
液晶パネルに映るピンク髪の言葉に、僕はさらに驚いてしまう。
「な、なんで、研究所に行かなきゃいけないんだよ…!」
なんだか嫌な予感がする…でも、今日一日動き回った僕のお腹はぐぅっと情けない音を発している。
「さとるっ、早く行こう!」
「そうですよ、マスター…ご飯はちゃんと食べないと体に良くないです」
ルセルとシュクレは研究所に行く気満々だ。
仕方なく僕は勉強机の椅子から重い腰を上げ立ち上がる。
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