「悟の奴…ようやくやる気になってくれたみたいだね」
「お兄様…いらっしゃったのですか!?」
ピンク髪のメイド・レイニーは、背後からやってくる金髪白衣の男の姿に驚く。
「そりゃあ、僕だってあいつの父親だからね…たまには息子の顔も見たいじゃないか」
さっきまで息子・悟の相手をしていたレイニーは、そっくりな顔がやってきた事に微笑んでしまう。
「やっぱり、そっくりですよ…お兄様と悟さま…」
私は小学生の頃にお兄様に作ってもらってから、お兄様とは30年ほど行動を共にしている。
その間のお兄様とお兄様の息子さんである、悟さまとの様子はずっと見てきた。
「オニーソン…全く素直じゃないっす…」
「さとるさんも素直じゃないのですよー」
さっき悟さまの神姫、ルセルとシュクレの双子に負けた二人は、傷付いた体からは想像もつかないくらい元気な声で話している。
「希歌さん、リーシャさん…クレイドルで休んだ方がいいですよ?」
私は傷付いた二人を、研究所の内の特殊なクレイドルまで連れていく。
「不思議なもんだね…似てほしくない所まで息子が似てしまうなんて…」
先程の二人の神姫の話しを聞いていたお兄様は、少し困った様子で呟いた。
「そういえば、レイニー…例のものがそろそろ完成しそうなんだ…やってくれるね?」
お兄様の頼みとあれば、私に出来ない事なんてない。
私は、はい喜んでと精一杯の笑顔でお兄様に応える。
「安心したよ、これで僕の新しい研究の成果が実になるというわけか…」
嬉しそうに微笑むお兄様のお顔…それは30年前からずっと変わらない。
「お兄様…私はずっとお兄様の事を…」
「ん、どうしたレイニー?」
思わず言いかけたけど、その後に続く言葉がどうしても出てこない。
ヒューマイドなんかにこんな言葉言われても、お兄様は困ってしまうだけ…私は必死に言葉を飲み込んだ。
「珍しいな、レイニー…君がだんまりなんて…あ、今日はしーちゃんのお店に行く約束をしてたんだった!」
白衣の袖を少しまくり腕時計を見たお兄様は、駆け足で研究所を出ていってしまう。
「私は…お兄様を…心からお慕いしております…」
バタンと閉まる研究所の扉に向かって、私の言葉は一瞬で掻き消された。
どうしてでしょう…ヒューマイドなのに心という場所がものすごく痛い。
私が本当にヒューマイドなら、涙を流す事が出来たでしょうか…
私はこのどうしようもなく大きな想いを、また硬い鉄の奥にしまい込んだ。
「いらっしゃい、オニーソン」
扉を開け、薄暗い部屋の中から、親友の甘い声が聞こえる。
今日も店が始まる前に、一人で飲んだんだろうな…そう思いながら、ガラガラのカウンター席に腰をかける。
「今日もオニーソンしか来ないのよ、だから自分で先にお酒飲んじゃった」
僕がキープボトルしていたボトルに手をかけ、綺麗な指で慣れた様子で注いでくれる。
「しーちゃん、あんまり飲み過ぎると体によくないよ」
僕は綺麗な指からグラスを受け取り、一口アルコールを体に取り込む。
強い酒なので、一瞬でアルコールが体中に染みていく感じがする。
「そういえば、悟くんとはどうなの?」
長くて綺麗な茶髪をいじりながら、甘ったるい声で聞いてくるしーちゃん。
「あいつ、ようやく神姫のオーナーになったんだ」
なんだろう、息子の事を話す時はとても嬉しく感じる。
「そう…こないだ、姪っ子の美音が自慢しにきたわよ、神姫に新しい服を作ってやったって」
しーちゃんの姪っ子の美音ちゃん。
しーちゃんの妹である歌音ちゃんと、かーくんこと影流くんの子供だ。
かーくんにどうしてもと頼まれて、特別に専用の神姫を作ってあげたっけ。
美音ちゃんがその神姫を大事にしてくれていると聞いて、僕の胸はなんだかすごく熱くなった。
「私も欲しかったわぁ…オニーソンとの子供」
急に真顔になって小さく呟くしーちゃんの言葉にすごくギョッとした。
しーちゃんが女性だったなら、僕の人生はもっと違うものだったかもしれないと考えると不思議な気持ちになる。
「悟…ちゃんと寝れてるかな…」
僕はすごく息子の事が気になった。
「ちょっと、さとる!携帯が鳴ってるよ!」
耳元でけたたましく響くこの声は…ルセルか。
「マスター、画面にはちまりさんと表示されています!」
そう言うとシュクレは枕元にあった僕の携帯を手元まで持ってきてくれる。
ちまりちゃんからなら無視出来ないな、電話に出よう。
僕は携帯の通話ボタンを押して、携帯を耳元まで持ってくる。
「ミニーソンくん、デートしよ!」
ちまりちゃんの元気な声が響いた。
僕はその声を聞いて、ルセルとシュクレに神姫センターに行くように準備しろとジェスチャーする。
二人は慣れた様子で、S.Project製の武装と、オーベルジーヌ社製の武器を僕の鞄に詰めた。
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