朝のクレーター事件も、お昼頃にはみんなもう気にしなくなっていた。
結局、あの巨大な落とし穴は何なのかさっぱり分からないようだ。
科学が専門の先生もかなり頭を使ったらしいが、あのクレーターが出来た原理すら分からなかったらしい。
「授業、遅刻にならなくてよかったね」
「あの騒ぎでしたら、仕方のない事だったんでしょうけど…」
そんな事を話しながら、ルセルとシュクレは僕のシャーペンや消しゴムを筆箱にしまってくれている。
今日の授業はもうこれで終わり。
帰りのホームルームも終わったので、早い人はもうとっくに教室から消えている。
「ちまり、早く起きなさい!」
「もう学校終わっちゃったよ~」
前の方の席にいるちまりちゃんは机に突っ伏して眠っていたらしい。
姫子さんとアウラさんの二人が必死でちまりちゃんの頭をポカスカ叩いて起こそうとしていた。
「悟くん、一緒に帰ろっ」
実は隣のクラスだったらしい美音ちゃんが、いつの間にか僕の前の誰もいなくなった席に座っていた。
「じゃあ、ちまりちゃんも帰り道一緒だしみんなで帰ろうか」
僕は机に入っていた教科書や、双子が片付けてくれた文房具を全て鞄にしまうと、美音ちゃんと一緒にやっと起きた様子のちまりちゃんの席まで行く。
「うん、ちまりも一緒に帰るー」
「あんたまだ片付け終わってないわよ、ほんと世話がやける子ね…」
「マスターなんだからもっとしっかりしてよー」
まだ寝ぼけた様子のマスターをよそに、ちまりちゃんの神姫二人はパパッと片付けをしてすぐにでも帰れるようにしてしまう。
「じゃ、みんなで帰るわよ~」
ちまりちゃんを待って、お化粧直しをしていた美音ちゃんの声で僕たちは教室を後にした。
「じゃあね、ちまり~また来週ね」
ちまりちゃんの家の方が僕たちよりも近いので、いつもちまりちゃんとはこうして先に別れる事になる。
「じゃあまたね、美音!ミニーソン!」
家の玄関の前で笑顔で手を振ってくれている、ちまりちゃん。
その頭上には、白い翼の神姫が二人手を振っているのが見えた。
「じゃあ、また!」
ちまりちゃんと別れた僕と美音ちゃんは二人になる。
実際には、僕の神姫二人と美音ちゃんの神姫が二人いるけれど…
朝のこともあるし、改めて美音ちゃんと二人きりになると、意図していなくてもドキドキしてしまう。
「どうしたんだろーね、さとるってば…」
「確かにちまりさんといる時とは様子が違いますね…」
鞄の中にいるルセルとシュクレ二人の声が聞こえてくる。
「私、ルセルさんとシュクレさんにすごく興味があります…」
「ゆきうも!ルセルちゃんと遊びたい!」
そんな風に言っている神姫たちを、美音ちゃんは鞄の中に押し込んでしまう。
「ちょっと、あんた達は本当にうるさいんだから~少しは気をきかせて静かにしてなさいよ」
美音ちゃんの鞄の中から、わーわーと喚いている雪卯さん達の声が聞こえる。
しかし、美音ちゃんが鞄に与えた一発の攻撃により、鞄の中の二人の声はいつの間にかしなくなった。
「えっと、悟くん…今日は本当にありがとう…アタシ、こんなカッコイイ男の子に助けてもらうの始めて…」
鞄を持っていない方の手で、ぎゅっと僕の手を握ってくる美音ちゃん。
二人っきりな時点でドキドキが止まらない僕には、その行為がさらにドキドキを増すものにしかならなかった。
「大した事じゃないんだ…僕はただ、美音ちゃんの身が心配で…」
僕が恥ずかしいからと小さい声でそう呟くと、美音ちゃんが握ってくれている手がさらにぎゅっと握り返してきた。
「あ、ここがもう僕の家なんだ…美音ちゃんもこの近くなんだっけ?」
あまりに恥ずかしくて堪えられなかった僕は、自分の家が目の前にあったこともあり、逃げるように自分の家の門まで走った。
「そ、そうね…外じゃ恥ずかしいもんね…分かった、じゃあまた後でね!」
可愛くウィンクした美音ちゃんは、バイバイと手を振って小走りで駆けていった。
また後でね…というのが少し気にかかったけど、また明日の間違いだろうと聞き流す事にした。
「ただいま、おじさん!」
「ただいまです、おじ様!」
いつものように庭で作業していた庭師のおじさんに、鞄から顔を出して双子は挨拶する。
「おかえりなさい、坊ちゃま、ルセルちゃん、シュクレちゃん」
もう家中の人たちが、ルセルとシュクレの事を分かっているらしい。
屋敷の中に入った時も、メイドや執事たちはみんな丁寧にルセルやシュクレにも挨拶した。
「いやぁ、なんだか僕もお嬢様になったような気分だよー」
「お姉様ならお嬢様っていう称号がピッタリです!」
自分の部屋に入ってくるなり、双子は鞄から飛び出して僕のベッドにダイブした。
「あんまりお坊ちゃんとかって、いいもんではないと思うけどね…」
僕は学校の制服をハンガーにかけ、そのまま部屋着に着替える。
「アタシはお嬢様だけど、全然嫌じゃないわよ!」
「お嬢様いいです、贅沢出来ますし」
「ゼイタクゼイタクー!」
さっき聞いたばかりの声が…しかも僕の部屋で!?
驚いて振り返る僕の前には、さっきバイバイと別れたばかりの美音ちゃんと雪卯さん達がいた。
しかも美音ちゃんはかなり露出の高いワンピースを着ている。
「いっ、いつの間に…?!」
驚いてハンガーを落とした僕に、美音ちゃんは笑顔でこう言った。
「さっき言ったじゃない、また後でねって♪」
COMMENT
コメントありがとうございますー。
美音 「MiKeさんありがと~アタシもMiKeさんみたいな殿方がす・き(はぁと)」
悟 「MiKeさん、逃げてー!」