「おい、堂元!聞いてるのか、堂元!」
昨日の星夜くんとのバトル、僕が負けてしまったせいでちまりちゃんは星夜くんと付き合う事になってしまった。
いくらちまりちゃんが、その条件をのむと言ったからってやっぱり申し訳なさすぎる…
「さとる…先生が呼んでるよ…」
「いつまでボーっとされてるんですか、マスター…」
胸ポケットの中から、僕必死にをドンドンと叩くルセルとシュクレ。
「え…どうしたの、ルセル、シュクレ?」
僕が胸ポケットに隠れている二人を見ると、二人は声を出さずただ首を必死に横に振っていた。
一体、何があったんだろう…僕が胸ポケットから前に視線を移すと…
「堂元、先生の話しを無視して独り言とはよくやるな…授業を聞かなくていいのなら、先生の代わりに授業やってもらおうか?」
学校の先生が僕の目の前で、腕を組んで立っていた。
一瞬状況が掴めなかったけど、ここは学校だった…どうしよう。
「えと、あっとですね…ええっと…ご、ごめんなさい先生!」
僕はもうこれしかないと思って、机に思い切り顔がついてしまうような勢いで頭を下げて謝った。
胸ポケットの中に隠れていた二人が、僕のいきなりの動きでかなり驚いている様子がわかった。
「先生、堂元くんもこれだけ謝ってるんだし、許してあげてもらえませんか?」
自分の席からすくっと立ち上がり、そう声を発したのはちまりちゃんだった。
「仕方ないな…そこまで言われたら、今日の所は許してやろう」
先生は僕の前から気配を消し、教壇の方へ戻って授業を再開させた。
「いきなり危ないよ、さとる!」
「お姉様、今のマスターはそっとしておいた方が…」
僕が頭を上げると、一番前の席にいるちまりちゃんは席について先生の話しをしっかり聞いていた。
なんだか本当に色々と申し訳ないな…僕はちまりちゃんにどうお詫びしたらいいのだろう。
僕はこの日一日、ずっとその事で頭がいっぱいだった。
「ちまり、帰るぞ」
帰りのホームルームが終わると、待ってましたとばかりに教室の入口に星夜くんが来ていた。
「うん、すぐ行く!」
ちまりちゃんは帰り支度を神姫たちに手伝ってもらいながら終えると、パタパタと星夜くんの方へ駆けていく。
その間に一瞬だけちまりちゃんが僕を見てきた気がするけど、僕はなんて言ったらいいか分からなくて何も言えなかった。
「悟くーん、アタシたちも帰りましょ?」
星夜くんとちまりちゃんの姿がなくなると、僕の隣の席にはいつの間にか美音ちゃんが座っていた。
「悟くんがそんなに落ち込んでばかりいたら、ちまりも可哀相よ…ね、元気出して?」
美音ちゃんは僕の帰り支度を手伝ってくれる。
ルセルとシュクレは二人で何やら話していたようだが、気を利かせてくれているのか黙っている。
「そこまで悟くんが気に病む事ないわよ…星夜くんが神姫バトルで強いのは分かりきっていた事だし…」
帰り道、美音ちゃんは必死で僕を励ましてくれていた。
なんだかものすごく自分が情けない気がした。
幼なじみ一人すら守る事が出来ないなんて。
「そう言えば、ちまり言ってたわね…あの時、悟くんが勝つって信じてたからあの条件をのんだって…」
美音ちゃんの顔はなんだか複雑そうな表情をしている。
あそこまで僕を信じてくれていたちまりちゃん、あっさりと僕が負けてしまってどんな気分だっただろう。
想像するだけで、かなり胸が痛くなってきた。
「悟さん、元気出して下さい…元気のおまじないです!」
「おまじない、おまじない!」
美音ちゃんの鞄から飛び出した雪卯さん達は、僕の体を伝って僕の顔の方までくると頬にチュッとキスしてくれた。
「こらーやめなさいよ、あんた達…悟くんが困ってるでしょ?」
美音ちゃんは二人を叱ると、慌てて二人を掴み鞄にしまった。
「大丈夫だよ、美音ちゃん…ありがとう、雪卯さんたち」
なんだか少しだけ、元気をもらった気がした。
「確かに、まだ諦めるには早いわよ…もう一度、決闘を申し込んだら?」
美音ちゃんはニコッと微笑みながらそう言うと、スタスタと僕の先を歩いていく。
「もうすぐでアタシの家だから…じゃあ、またね!」
美音ちゃんは元気にそういうと、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「おまじない…ねぇ…」
「あら、お姉様、私にもおまじないしてくれるんですか?」
「ち、違うよ!少なくてもシュクレにはしない!」
まだ僕の胸ポケットにいたままの二人が、ブツブツと話しているのが聞こえる。
確かに…まだ諦めるには早い。
実際に星夜くんの神姫と戦った二人の方が、僕なんかより悔しかったはずだ。
だから僕がここで落ち込んでいるわけにはいかない。
僕はこの二人のマスター、マスターがしっかりしてなくてどうする。
僕は自分にカツを入れるために頬を叩くと、なんだか少し頭がスッキリしたような気がした。
「ちまりちゃん、待っててね…僕を信じてくれたちまりちゃんを、もう二度と裏切らない!」
空を見れば、久しぶりに綺麗な夕空が広がっていた。
ちまりちゃんとまたいつものように一緒に帰りたいな。
僕にはこの理由だけで十分戦えると思った。
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