「悟さま、ずいぶん悩んでいらっしゃるようですね?」
夕食の途中、レイニーさんがディスプレイから話しかけてくる。
僕は神姫のバトルの様子を撮影したムービーを見つめながらカレーにスプーンを伸ばす。
「…ふふ、ちょっと前までは神姫と関わることすらなかった悟さまが、不思議ですね」
レイニーさんがクスクスと笑っている。
「僕も不思議だよ…」
これも2人の魅力なんだろうか…
お父さんに負けたみたいなことになっているのは悔しいけど…
「悟さま、後で研究室のほうにいらしてください」
突然レイニーさんが言い出す。
何の用があるんだろう…?
「お父様が、ルセルさんとシュクレさんのために用意したものがあるそうです」
僕は研究室に来ていた。
あの2人と出会ってから、父と関わる機会が増えた気がする。
実際に会う機会は、相変わらずないのだけれど…
「用意したものを渡す前に、一度テスト戦闘に参加していただきたいのですが…」
レイニーさんが機械を立ち上げながら話しかけてくる。
「お、今日もののかの出番っすか?」
「いえ、今日の相手は別にいます」
それを聞いて希歌さんがいじけ始めた。
「ちぇー、ののかだってもっと暴れたいっすよー」
「じゃあ今度リーシャと戦うのですよ!きっと楽しいのですよ!」
いじけている希歌さんをリーシャさんが励ましている。
「わ、私もお相手しますから…」
「フェリアちゃんは非戦闘用じゃないっすかー」
フェリアさんの励ましは不発に終わったようだ。
なんとも微笑ましい光景だ。
「フェリアさん、後の機械のセットはお願いしますね」
レイニーさんが戦闘シミュレーションのシステムをほとんど立ち上げたところで、部屋から出ようとする。
「あれ、レイニーさんは今日は見ていてくださらないのですか?」
「今日はちょっと他に用事があるんですよ」
シュクレの質問にレイニーさんが答える。
「それでは悟さま、失礼します」
レイニーさんは僕に頭を下げると、部屋から立ち去った。
――BattleRondo Ready...Go!
戦闘シミュレーションが起動する。
今回のマップは、特に障害物等の無いバーチャル空間のようだった。
何も障害物が無いので、敵はスタート地点から見る事ができ…
なんだあれは。
そこには、黒い六角形を並べた装甲を全身に装備した神姫が立っていた。
「あれ…白魔型なのかな…?」
装備を良く見ると、ルセルとシュクレの装備を両方無理やりつけたような装備をしている。
右肩にはシュクレのランチャー、足にはスケート、右手にロッドに左手にライフルを持っている。
右肩の先と左肩の先には、見慣れない装備が付いている。
「私たちの武器も全て持っているみたいですね、色は違いますけど…」
シュクレが冷静に分析している。
あれも白魔型の1つなのだろうか?
≪ドゥゥゥンッ≫
「うわぁぁぁぁあ!?」
「大丈夫です!」
ルセルに向かってランチャーが発射されるが、シュクレが咄嗟に前に入り、左肩の盾で防御する。
さすがは白魔型でも随一の防御力だ。
「…あの方は手加減はしてくださらないようですね」
シュクレが身構える。
「シュクレ、ランチャーとライフルで援護して、ルセルはできるだけ回り込みながら突撃!」
「分かったよ!」
ルセルがスラスターを噴かしてスピードを上げる。
シュクレは座り込み、射撃の姿勢に入る。
≪ズダダダダダダッ≫
「わぁー!?」
敵は左肩に付いた機関銃のようなものを発射してくる。
ルセルはそれは右肩の盾で弾きながら接近を試みる。
「お姉さま、援護しますのでタイミングを合わせてください!」
シュクレがライフルを命中させるが、相手は避けようとすらしない。
「防御力の高さも白魔型並か…」
「なら…これなら!」
シュクレはランチャーを起動し、敵に向ける。
≪ドゥゥゥンッ≫
敵は左肩の盾でそれを弾く。
敵は標的をシュクレに変えたのか、ルセルを機関銃で威嚇しながらシュクレに接近する。
「な、なんで追いつけないの!?」
ルセルも敵を追うが、追いつくことができない。
…敵の動きに無駄が無い、スケートを限界まで活用し、スラスターの動きも最小限だ。
「マスター、このままでは接近されます」
「仕方ない、シュクレも接近戦の用意を!」
シュクレはライフルをソードに持ち変えると、盾を敵に向けつつ構える。
「…シュクレさん、それではダメですよ?」
「…え?」
敵が口を開く。
この声はどこかで聞いたことがあるような…
≪ギュイィィィン≫
突然、敵の右肩に装備されたクローの先に付いているドリルの音が鳴り響く。
シュクレが咄嗟に振り下ろした剣の攻撃を避けると、シュクレの盾をクローで掴む。
「きゃあっ!?」
クローは一瞬にしてシュクレの盾を砕く。
KS製の装甲を一瞬で…!?
「シュクレー!!」
ようやく追いついたルセルが、ロッドを敵に向かって振りぬく。
「…ルセルさんもまだまだのようですね」
敵はそれをクローで弾くと、スケートの付いた足で蹴り上げる。
「このー!」
ルセルも同じように蹴り上げるが、ルセルはそのまま姿勢を崩して転んでしまう。
「わわー!?」
≪ズダダッ≫
転んだルセルに、敵は機関銃で追撃を行う。
防御する事ができずにダメージを受けるルセル。
「お姉さま!」
シュクレが剣で斬りつけにかかる。
しかしそれも盾で弾かれると、近距離にも関わらずランチャーのチャージに入る。
「…手加減はできないのです、すいません」
そのままランチャーを受けたシュクレが、遠くに吹き飛んでいく。
LPはあっというまにゼロになった。
「シュクレっ!」
ルセルが敵に飛び掛る。
敵はライフルをソードに持ち替えると、ルセルを下からに上に斬り上げる。
「うわぁぁぁぁあ!?」
――You Lose...
謎の神姫は、ルセルとシュクレの間に立っている。
その神姫は、僕の方を向くと、口を開いた。
「悟さま、あなたはまだまだ強くなれます。ご心配になさらずに」
その言葉と共に、ディスプレイは真っ暗になった。
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