昨日、美音ちゃんに誘われてかまきり拳法の道場に行った後、神姫センターに行った僕たちは健闘も虚しく負けてしまった。
今だに局長が言っていた、リミッター解除の事もよく分かってるないし…
「さとる…授業さぼっちゃってていいの?」
僕の肩で心配するような声で僕を見つめるルセル。
ちまりちゃんに止められて以来、学校の屋上に来たのは今日がすごく久しぶりな事だった。
「いいんだよ、たまには…それに、昔よりは授業サボってないから」
そんな事言っても何の自慢にならないのは分かってる。
僕は校庭で体育の授業をしている生徒たちを見下ろしながら呟くように言った。
「マスター、もうこれ以上は暗い方向に考えないで下さいね?」
僕の胸ポケットにいるシュクレも、いつになく僕を心配するような声を発している。
確かにあれから神姫バトルではずっと負け続きだったから…
でも、もうあそこまでの絶望した気持ちが湧いてこないのはどうしてだろう。
「さとる、ごめん…ぼくたちが弱いから辛い思いばかりさせちゃって…」
いつになく元気なくうなだれながら謝るルセル。
そうか、ルセルやシュクレがいるから、僕の寂しさはもうないのか。
父が神姫にあそこまで没頭してしまう気持ちも少しだけ分かる気がする。
「マスター…お姉様は悪くないんです…私がお姉様の足を引っ張ったから…」
姉想いのシュクレ。姉のことしか考えてないのかと思う事もあったけど、マスターである僕の事は少しは気にかけてくれているらしい。
僕は肩にいるルセルを右手で取り、胸ポケットにいるシュクレを左に取り二人を手でぎゅっと抱きしめる。
「二人共ごめん…ふがいないマスターで…でも、僕にはルセルとシュクレが必要なんだ」
これだけはちゃんと二人に言わないと。
いつになく真剣な表情で話す僕に、二人はかなり動揺している。
「このまま負けっぱなしなのは僕も悔しい…だから時間はかかるかもしれないけど、二人が気持ちよく勝てるように頑張るからこれからもついてきてくれないかな?」
なんだか恥ずかしいと思える言葉も、今ならすらすらと言える。
「さとる……おまじない…」
赤い瞳をうるっとさせているルセルは、自分が抱かれている僕の右手におまじないのキスをする。
「お姉様がするなら私もしないと…マスター、私たちはマスターにどこまでもついていきますよ」
ルセルの行動を見て、シュクレも僕の左手に同じようにおまじないのキスをした。
何だかものすごく胸の奥がむず痒くてしょうがない。
「おっ、悟じゃないか…こんなとこでまた自殺ごっこか?」
昼休みを告げるチャイムが鳴ると、その直後に聞き慣れた声がした。
振り返ってみれば、星夜くんと…ちまりちゃんだ。
「自殺ごっこだなんてひどい言い方しちゃダメだよ、星夜くん」
星夜くんにかなり強引に手を引かれているちまりちゃんは、そう言って星夜くんを睨んだ。
「あれ…二人共どうしてここへ?それに二人の神姫たちは…?」
かなり気まずい気分になった僕は、とりあえず疑問に思った事を二人に聞いてみる。
「月夜と水都は、ちまりの神姫とどっかで遊んでるよ」
星夜くんはそう言うと、屋上にあるベンチにちまりちゃんと腰掛ける。
星夜くんの話しだけ聞くと、姫子さん達がとてもじゃないけど、星夜くんの神姫と仲良く遊んでる姿が想像つかない。
「早くお昼食べよ、今日はお母さんが特別にお弁当作ってくれたの…ボーイフレンドと食べなさいって」
ちまりちゃんはそう言うと、持っていた大きなお弁当箱を開いた。
少し離れた所にいる僕からも、そのお弁当がとても美味しそうなおかずばかりなのが分かる。
「じゃあ、頂くぜ」
星夜くんはちまりちゃんがお弁当箱を開けた途端、すぐに綺麗な黄色の卵焼きを口に放り込んだ。
「さとる、ぼくたちもお昼食べにいこうよ」
「そうですよ、マスター…早くしないと学食のマスターの好きなカレーがなくなってしまいます」
僕の右手左手にいるルセルとシュクレに言われ、ハッとすると僕はそのまま屋上の出口に向かって歩き出す。
そうしている時、星夜くんとちまりちゃんのいるベンチの横を通ったら、ちまりちゃんが俯いて黙っているのが見えた。
僕はたまらずちまりちゃんにこう声をかけてしまう。
「ちまりちゃん、いま楽しい?」
僕の言葉にちまりちゃんはハッと顔を上げると、すぐに笑顔でこう言った。
「うん…楽しいよ」
そのちまりちゃんの言葉に、僕はそれ以上は何も言えなかった。
階段を下りていく時、星夜くんが大きな声で笑っているのが聞こえた。
なんだか僕の心がとても、なんとも言えない悔しいような気持ちでいっぱいになった。
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