「はいはい、どうせ俺たちはお荷物ですよ…」
「お、お荷物なんですか…僕たち…」
僕の部屋の勉強机の上でいじけているのは、ルセルとシュクレのプチマシィーンズのラパンとトルテュだ。
うさぎ型のラパンはルセルに抱っこされながらも、僕に反抗するようにぷいっとそっぽを向いている。
「ほらほらお二人共、そんなに拗ねないで下さい…」
シュクレは亀型のトルテュの頭を優しく撫でた。
「ごめんね、二人共…レイニーさんには二人がデリケートだから、あんまり外に連れ出したりしない方がと言わ
れていて…」
僕はがっくりとうなだれているトルテュ、そっぽを向いたままのラパンに必死に謝る。
「もう、素直にお出かけに連れてって下さい~ってどうして言えないかね」
「マスター、自分だって全然素直じゃないじゃんか…」
ルセルの言葉に反論するラパン、そしていつも通りケンカになってしまう二人。
「ちゃんとした理由があるなら…仕方ないですよね…」
「大丈夫ですよ、いつかマスターやマスターのお父様が何とかしてくれるはずです!」
物分かりのいいトルテュに、優しく励ましの言葉をかけるシュクレ。
この二人はルセル達とは違って、とても穏やかで仲も良い。
「あ、そういえば、今日はアーンヴァルMk.2とストラーフMk.2の発売日だったね」
僕はいつだったかフロントライン社のホームページで見た情報を思い出した。
写真を見る限り、かなりカッコイイ二人だったからなぁ。
見れるものなら実物をこの目で見たいと思っていた。
「あれ、さとるのやつってば他の神姫の事まで話してるや」
「神姫嫌いは治ったみたいだね~」
僕の触れてほしくない所を思い切り言葉にするラパンとルセルは、さっきまでケンカしていたのが嘘みたいに仲
良しだ。
「僕だって新しい神姫は気になるんです、敵の情報なら何でも知っておかないと」
僕のその言葉にじとーっとした目で見てくるラパンとルセル…そんなに疑わなくてもと僕は思う。
「で、ではご主人様…せっかくの機会ですし、これから神姫センターに言ってみてはいかがでしょう…」
小さな声で一生懸命話すトルテュに、この部屋にいる誰もが大きく頷いた。
「よし、神姫センターに来たぜ!」
「始めてのお出かけ…幸せです」
いつも通りといえばいつも通りに、神姫センターにやってきた僕たち。
肩に乗っているルセルとシュクレは、互いにラパンとトルテュを抱いている。
「ふふ、とても嬉しそうですね…二人とも」
「神姫センターに来たぐらいで、そんなに騒がないでよー」
ラパンとトルテュのマスター二人は、互いに正反対な感想を口にしている。
「あ、あれがマーク2かぁ…確かに今日の神姫センターには、あの二人を連れている人が多いね」
神姫センター内を見渡してみれば、かなりの数の人がアーンヴァルMk.2やストラーフMk.2を連れている。
新しい神姫が出た時は、いつもこんな感じでお祭りっぽい感じになる。
「フロントライン社の新しい神姫です、よかったら皆さま見ていって下さい」
いつもは武器や武装などが展示されているコーナーが、今日ばかりはアーンヴァルMk.2やストラーフMk.2がたくさん展示されていた。
大きな声で新しい神姫を宣伝する女の人は、フロントライン社の人らしい。
「あの姉ちゃん、可愛い制服着てるじゃん」
「馬鹿、ラパン…見るべき所は、新しい神姫の方だよ!」
僕の肩でまたケンカを始める二人、確かにフロントライン社の女の人は可愛い制服を着てると思うけど…
「ああ、お姉様があの制服を着た所を考えると私…」
「マスター、よだれ垂れてます、よだれが…」
シュクレ、トルテュの方もいつものように仲良く話している。
「ほう…これはすごくカッコイイ武装だね…武器の性能とかもすごいや」
僕は展示されているアーンヴァルMk.2や、ストラーフMk.2の武装や性能の説明をしている動画を見る。
「さすがフロントライン社だな…僕も色々見習わないと…」
聞きたくない声がした気がした。
思わず僕は静かにその場を離れようとゆっくり歩き出す。
が、残念な事に白衣の男のそばにいた、ピンク髪のメイドが僕たちに気付き駆け寄ってきた。
「わぁ~悟さま!悟さま達も神姫センターに来ていたのですね!」
いつも家ではメイド服姿がデフォルトのレイニーさんだが、今日は珍しく見た目相応の落ち着いた格好をしてい
る。
「どうした、レイニー?調査も終わったし、そろそろ……って、さ、悟じゃないか!」
やばい…やっぱりそうだった。僕の父親だ。
父さんはメモ帳代わりの液晶パッドをしまうと、僕に近付いてきた。
うー、なんだかすごい気まずい…今すぐ帰りたい。
「神姫達と仲良くやっているようだね…安心したよ」
父さんは今まで僕に見せた事もないような笑顔を見せた。
レイニーさんはそんな僕と父を見て、すごく嬉しそうに笑っている。
「では、父さんはもう退散するよ…調査の方はもう終わったのでね」
父は白衣を翻し、すたすたと歩き去っていった。
何だったんだ、あの人…
僕が不思議に思っていると、レイニーさんが僕の耳元である言葉を囁いた。
「え…」
僕は思わず、その場でしばらく固まってしまった。
そして、その後のアーンヴァルMk.2とストラーフMk.2との神姫バトルで、レイニーさんの言葉がおおいに
役立つのだった。
「やったね、さとる!マーク2たちに勝ったよ!」
「俺も初めての神姫センターで勝てて嬉しいぜ!」
「この作戦は次回の作戦いかせそうですね」
「僕ら勝ったんだ…よ、よかったら…」
マーク2戦に勝って、すごい勢いで喜ぶルセル、ラパン、シュクレ、トルテュ。
レイニーさんのアドバイスをそのまま使ったから勝ったなんて、なんだかカッコ悪い気がして言えない。
しかもそのアドバイスが、父が言っていたものだったなんてなおさら。
「やっぱり僕は、父さんを越える事なんて出来ないのかな…」
素直に勝ちを喜ぶ四人に比べて、僕はこの複雑な思いのせいで素直に喜ぶ事は出来なかった。
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