「結局、あのクレーターは何だったんだろうねー」
「俺たちが生まれる前の話しか?」
神姫用のサンドウィッチを食べながら喋るルセルに、ラパンが不思議そうに首をかしげている。
「あのクレーターはラパンさんやトルテュさんが誕生する結構前に、突然学校の校庭に出来てたんです」
「た、確かにまだありますもんね…クレーター」
そう説明するシュクレと、窓から校庭に今でもあいている大きなクレーターを見つめるトルテュ。
窓際の席だったのが少しは役に立ったかな。
時計を見れば、次の授業までまだ時間はありそうだ。
僕はゆっくりと学食で買った、焼きそばパンを食べる。
「おい、ちまり~迎えにきたぞ」
ちまりちゃんと付き合い始めてから星夜くんは、毎日のように昼休みにちまりちゃんを迎えにきていた。
また屋上で一緒に食べるのかな…
あんまりジロジロ見るのも悪いと思いつつも、どうしてもあの二人の事が気になる僕だった。
「ごめん…今日は神姫たちと一緒にご飯食べたいの」
「そうよそうよ!あんた達のせいで、ちまりとお喋り出来る機会が減っちゃったじゃない!」
「今日ぐらいは勘弁してー」
さすがにちまりちゃんも毎日星夜くんとだけ一緒なのも嫌か…
最近は、親友である美音ちゃんとちまりちゃんが一緒にいる所もあまり見ないし。
ちまりちゃんと一緒に、姫子さんやアウラさんも必死に抵抗している。
「うるさいんだよ、お前らは…俺の神姫と遊んでろ…ほら行くぞ、ちまり」
姫子さんアウラさんが乗っていたちまりちゃんの机に、星夜くんの神姫である月夜さんと水都さんが飛び掛かる。
「さぁ、今日も遊んでもらおうか…」
「マスターの命令は絶対だからな」
月夜さん水都さんは武器を構えると、姫子さんアウラさんにいきなり攻撃を仕掛けた。
「姫子…アウラ…星夜くん、やめってたら…これ以上、二人を傷付けないで!」
「うるさい、ちまりは俺のことだけ考えてればいんだよ!」
ちまりちゃんの抵抗もむなしく、星夜くんは強引にちまりちゃんの腕を引っ張り教室を出ていってしまった。
「さとる…さすがにほっとけないよ、助けにいってもいい?」
「ほら悟、大事な女なんだろ?お前は彼女を助けるんだ!」
僕の机にいたルセルとラパンは、僕の鞄から武装を取り出すとあっという間にちまりちゃんの机に向かっていった。
「私は大丈夫ですよ、マスター…マスターはどうかちまりさんを助けてあげて下さい!」
「ちょ、ちょっと怖いですけどマスター達と一緒に姫子さん達をお助けしますから!」
シュクレもトルテュもルセル達に遅れないように、すたすたと姫子さん達の元へ向かった。
そうだよな…神姫たちがあんなに頑張ってるのに、僕だけが立ち止まっていてどうする。
僕は食べかけの焼きそばパンを口に一気に放り込むと、急いでちまりちゃん達を追いかけていった。
教室を出る直前に、姫子さん達の安心するような声が聞こえた。
「ありがとう…助かるわ、あんた達…さすがに毎日こんなのと戦ってるとあたしの体も持たなくて…」
「姫ちゃん、アウラたちは神姫だから疲れは平気と思うけど…ルセルちゃん達ありがとう!」
「だから、離してって言ってるでしょ!」
「どうして分かってくれないんだ、俺がこんなにお前のことを思ってるって事を!」
僕が二人は絶対にここに来るだろうと屋上へ来てみれば、二人は大きな声で言い合ってる最中だった。
「ミニーソンくん…」
ちまりちゃんが先に僕がついてきた事に気付く。
そして、そんなちまりちゃんの様子を見て、星夜くんも僕がきている事に気付いたようだ。
「なんだお前…前回俺に簡単に負けたくせに、今度はヒーロー気取りかよ?」
星夜くんは両手をポケットに突っ込みながら、かなりガラの悪い感じで僕を睨みつけた。
確かにそんな星夜くんはかなり恐いけど、こんな時に僕だけビビってるわけにもいかない。
「ち、ちまりちゃんが困ってるじゃないか…」
僕の声はかなり震えていたと思う。
でも、今の僕にはこれぐらいが精一杯だ。
「なんだよ、聞こえねーよ…もっとデカイ声で言えないのか?」
「よしてよ、星夜くん!ミニーソンくんまで巻き込まないで!」
僕を挑発する星夜くんと、僕を必死に守ろうとしてくれるちまりちゃん。
どれだけ僕は情けない男なんだ。
いつの間にか僕の目に熱いものが込み上げてきた。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
僕の心が悔しい気持ちでいっぱいになる。
そして、前回やその前に星夜くんに負けたしまった事が、昨日の事のように思い出される。
「どうした、泣いてるのか、悟?それでまた自殺ごっこか?」
星夜くんの次の挑発の瞬間にはもう僕は走っていた。
そして、僕が殴りかかってくるなんて思ってもいない星夜くんに、思い切り飛び掛かり一発入れる。
「何すんだよっ!」
僕に殴られて一瞬よろめく星夜くん。
その直後には僕の頬にものすごい痛みがあった。
「やめてっ!二人共…やめてったら!」
ちまりちゃんの制止も聞かず、僕たちは何度も殴りあっていた。
殴られても殴っても、何度もお互いに立ち上がりまた攻撃する。
あまりにも決着がつかなくて、僕の方がもうダメだと崩れ落ちそうになる瞬間、昼休みの終了を伝えるチャイムが鳴った。
ここでようやく殴り合いをやめる僕たち。
緊張の糸が切れたように、僕たちはバタリと大の字に倒れる。
「暴力なんてやめて…二人共…」
横に立っているちまりちゃんに目をやれば…いつも笑顔のちまりちゃんとは思えないくらい泣いていた。
星夜くんは僕より先に立ち上がると、僕の胸ぐらをがしっと掴む。
また殴られるのか…と身構える僕だったが、星夜くんは僕を立ち上がらせただけだった。
「この続きは神姫バトルでやろうぜ…」
星夜くんはそう吐き捨てるように言うと、ぺっと唾を吐いてそのまま屋上から去っていった。
「ごめんね…悟くん…」
ちまりちゃんは僕に倒れ込むようにして抱きつくと、かなり辛そうな声を上げて泣いていた。
「大丈夫…次は必ず僕が勝つから…」
僕はそう言って泣き続けるちまりちゃんを強く抱きしめた。
COMMENT
コメントありがとうございますー。
悟 「そうなんですよー、これで僕もだいぶ男っぽく…」
ルセル 「ぜんっぜん、男らしくないじゃーん…」
シュクレ 「お姉様、お顔が真っ赤ですよ(ニヤニヤ)」