「…悟さま、元気がなさそうですね」
「そ、そんなことはないんだけど…」
夕食の途中、ディスプレイから見ていたらしいレイニーさんが話しかけてくる。
「マスター、あまり気負わないで下さいね」
「うん、ぼくたち、絶対勝ってみせるから!」
2人の言葉が頼もしい。
でも僕は、どうしても自信が持てなかった。
人を殴ったのなんて初めてだ。
なんであんな気持ちになったのだろう?
ちまりちゃんの泣く姿は、絶対に見たくなかったんだ。
「…先日おっしゃっていた、お友達との神姫バトルの事でしたか」
レイニーさんはちょっと考えたような顔をした後、ふふっと笑った。
「悟さまは、やっぱりお父様にそっくりですね」
「…お父さんに?」
思いもよらぬ言葉にびっくりする。
「はい、お父様も女の子の事になるといつも本気でした。情けないように見えて、熱いお方です」
レイニーさんの言うお父さんは、僕のお父さんのイメージとは違う。
ただ、レイニーさんが嘘を言うようにも見えなかった。
「ルセル、シュクレー、ここは一発やってやるっすよー」
「はい、ファイトなのですよ!」
希歌さんとリーシャさんが画面の向こうから励ましてくれている。
「お二人のバトルのデータを見させて頂きましたが、お二人の今の実力なら、絶対に勝てますよ」
フェリアさんも励ましてくれている。
…あんな風に負けた相手に、僕は勝つことができるんだろうか…
何か、もう一つ切り札が必要なんじゃないだろうか…
僕は今、学校に来ていた。
今日の放課後、僕は星夜くんと戦うことになっている。
授業を聞いていても、全然耳に入ってこない。
「お姉さま、相手が2人で来たら、近距離戦はお願いします」
「うん、長距離でできるだけ削っておいてよね?」
ポケットの中ではルセルとシュクレが作戦会議をしている。
…僕も負けるわけには行かないな。
授業が終わると、星夜くんがいつものようにやってくる。
ちまりちゃんが気まずそうな顔でドアの方に向かう。
星夜くんは一度ちまりちゃんの横を通り過ぎると、僕の方に歩いてくる。
「…悟、約束は忘れてないだろうな?」
…ちゃんと覚えてる。
僕が負けたら、ちまりちゃんにはもう近付かない。
僕が勝ったら、ちまりちゃんと星夜くんは別れる。
僕が頷くと、星夜くんはちまりちゃんを連れて出て行った。
…僕も間に合うように神姫センターに行かないと…
「悟くん、アタシも一緒に行ってもいーい?」
教室を出ると、美音ちゃんが待ち構えていた。
「ちまりにメールで今日のこと聞いたの。アタシも力になるからー」
「私も応援しますよ」
「ゆきうもゆきうもー」
美音ちゃんが僕の隣に立ち腕を組んでくる。
…応援してくれてるんだろうな、きっと。
周りの視線が若干痛いけど…
「悟くん、着いたよ!」
美音ちゃんに連れられて神姫センターにやってきた。
「…ふふ、悟くん緊張がちょっと抜けたね♪」
…あ、たしかに…
美音ちゃんはそこまで計画通りだったんだろうか…?
「アタシは遠くから見てるよ、さすがに近くにいたら気まずいでしょ?」
「頑張ってくださいね、悟さん」
「がんばれさとるー」
雪卯さん達も応援してくれている。
「頑張って、悟。ちまりを助けてあげてね?
そうしたら、アタシが愛人になってあげてもいいよ」
美音ちゃんは僕のすぐ横に立つと、美音ちゃんは僕のほっぺたにチュッとキスをした。
僕の顔が一気に赤くなる。
「…さーとーるー!?」
「マスター、浮気をしすぎですよ?」
美音ちゃんはニコッと僕に微笑みかけると、雪卯さん達と神姫センターに先に入っていった。
…美音ちゃんの行動にはまだ慣れられない…
「…ルセル、シュクレ、今日は頼むね」
「うん、絶対負けないよ!」
「はい、お姉さまのことは誰にもやらせません!」
2人の調子もいいようだ。
…よし、僕たちも行こう。
神姫センターに入ると、星夜くんが仁王立ちしていた。
ちまりちゃんは星夜くんの後ろに立っている。
「…話すことは何も無いよな、勝負だ!」
「…うん!」
星夜くんの言葉に答えると、僕はバトルロンドの機械の前に立った。
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