「ルセル、シュクレから離れないようにして。
相手は近距離タイプが2体だから、シュクレを1人にするのは危ないよ」
「うん、わかったよ!」
今回のマップは、ボロボロな巨大なドームのようなところだった。
ドームの外では雨が降っているようだ。
「…外に出るわけには行きませんね」
白魔型に採用されているKSは水に弱い。
雨の中での不利は明らかだった。
「そのときは俺達が頑張るよ、KSじゃないからな」
「は、はい、頑張ります!」
ラパンとトルテュが励ましてくれる。
今日はちゃんと許可を取って2体を借りてきた。
…今日は負けるわけにはいかないんだ…
2人は警戒しながらドームの真ん中へと進む。
相手は近距離タイプ、狭いところは相手に有利になるだけだ。
真ん中でシュクレがルセルの左半身を護るように立つ。
こうすることで、2人は鉄壁の防御を発揮することができる。不意打ち対策だ。
「…相手はどう出てくるでしょうか…?」
シュクレがライフルを構えながら周りを警戒する。
「相手が出てきたら、ルセルとラパンはシュクレを護るんだ。
シュクレは相手を少しでも分断できるように狙って」
今回の戦いで重要なのは、シュクレをいかに守るかということだ。
長距離タイプのシュクレなら、相手を一方的に撃つことができる。
…とにかく、相手を先に見つけないと…
僕は目をこらした。
「…見つけたっ!」
天井から月夜さんが落下してくる。
シュクレも月夜さんを見つけると、ライフルを撃ち始める。
「…このっ!」
月夜さんが地面に落下する。
そこにシュクレからの射撃が命中する。
「やるようになったじゃないか!」
月夜さんは左右に繰り返し飛びながら接近してくる。
「えーいっ!」
≪ズダダダダッ≫
トルテュが機関銃を発射する。
月夜さんは一度物陰に隠れる。
「お姉さま、一度離れてください」
「わかった!」
ルセルがシュクレから離れると、シュクレはランチャーの発射体勢に入る。
≪ドゥゥゥゥンッ≫
シュクレはランチャーで月夜さんを障害物ごと吹き飛ばす。
しかし、そこには月夜さんはいなかった。
「…残念だったな、それは偽者だ」
先ほどの位置とは全然違うところから月夜さんが現れる。
「お前は本気を出さなきゃいけない相手みたいだな」
それとは別の所からも声が聞こえる。
…月夜さんが、2人…?
「な、なんだっていうんだよー!?」
「お姉さま、どうやらどちらかは偽者のようです」
たしかに、レーダーには1体しか映っていない。
「俺がなんで影型MMSなのかを…教えてやるよ!」
2人の月夜さんが同時に消える。
…一体どこに…!?
「捕まえたぁー!!」
「な、なにしやがるんだ!」
突然近くに現れた月夜さんが、ラパンを掴んでいる。
ラパンはドリルを回転させてなんとか逃れる。
「ラパンさん、トルテュさん、離れていては危険です、合体を!」
「わかりました!」
「お、おう!」
ラパンはルセルの右肩にクローとして、、トルテュはシュクレの左肩に機関銃として装着される。
「お姉さま、相手は姿を隠すのが得意なようです。
ここは私に任せてください」
そういうと、シュクレは周りを見渡し始める。
シュクレの装備している白魔量産型装備Ver.Lは、ルセルのVer.Rよりも索敵性能に優れている。
「シュクレ、月夜さんはどこに?」
「待ってください…いました!
お姉さま、右の壁の向こうです!」
「よぉぉしっ!」
≪キュイィィィン≫
ルセルがクローのドリルを回転しながら壁に突撃する。
≪ガッシャァァァンッ≫
「なにぃっ!?」
隠れていた月夜さんを、ルセルは壁ごと突き飛ばす。
月夜さんはギリギリで体勢を持ち直すと、後ろに飛びずさる。
「…ようやく追いついたぞ、無理をするな。月夜」
「あぁ、悪かった…」
月夜さんの吹き飛んだ先には、水都さんも待っていた。
水都さんが背中の大剣を抜いて両手で構える。
「…さぁ、ここからが勝負だ!」
「ぼくが相手だよっ!」
飛び掛ってきた水都さんに、ルセルが応戦する。
≪キンッ≫
水都さんの大剣を、ルセルはトンファーで受け止める。
一度離れようとする水都さんにスラスターで接近、クローで追撃を加える。
「くっ」
大剣を盾にして身を守るが、ルセルはそれをクローで引き剥がす。
水都さんは大剣を捨てると、剣とナイフに持ち替える。
「…ずいぶんと戦いを重ねたようだな」
「おかげさまでね!」
ルセルはトンファーを斧に持ち帰る。
2人はお互いに相手に突撃すると、武器がぶつかり合い火花を散らした。
≪ズダダダダッ≫
シュクレは月夜さんに機関銃を連射する。
月夜さんはそれをギリギリで避けると、シュクレに爪を立て飛び掛る。
「その程度、この盾には効きません!」
シュクレは左肩の盾でその攻撃を防ぐと、ライフルを剣に持ち替え斬りかかる。
月夜さんはそれを避けるために後ろに飛ぶ。
「姿を隠したり偽者を見せたりは、私には効きませんよ?」
「そうみたいだな…だがお前に近距離戦で何ができる!?」
月夜さんが再び飛び掛る。
シュクレがライフルを構えると、ルセルが横から飛び込み月夜さんを吹き飛ばす。
「お姉さま!」
「シュクレに手は出させないからね!」
ルセルはシュクレの横に立つと、自分が来た方を指差す。
「シュクレ、水都を一度置いてきたから、近付く前に攻撃を!」
「分かりました!」
シュクレがライフルを構え、水都さんに向かって発射する。
「…この!」
水都さんは上に跳ぶと、月夜さんの隣に着地する。
「…どうやら、今までとは違うらしいぞ?」
「そうみたいだな」
なぜか2人は上を見上げる。
「…こちらも全力で行かせて貰う!」
≪バァンッ≫
水都さんが天井に向かって拳銃を撃ち込むと、既に崩れかけていた屋根に穴が開く。
「キャアッ!?」
天井が崩れたことによって、瓦礫と雨が降り注ぐ。
…まずい、KS製の装甲で出来た2人にとって、水は天敵だ。
ディスプレイからは、装甲の防御力低下を知らせるアラームが流れる。
「私は海賊だからな、ちょっと濡れてるくらいのほうが動きやすいんだ」
「そしてこの瓦礫の粉塵の中で俺を見つけられるか?」
…どうやらこちらの弱点までは知らないらしいが、これはかなり不利な状態だ。
「マスター、どうしましょう…?」
シュクレも心配そうだ。
機動力が低いシュクレはより不利な状態になったとも言える。
「…こうなったらっ!」
ルセルがスラスターを噴かして、突撃する。
「ルセルっ!?」
「ぼくが敵を引き付けるよ!」
ルセルが相手がいたと思われた場所に飛んでいく。
「…甘いな」
ルセルの行動に慌てていたシュクレの元に、水都さんが現れる。
「この状況で戦力を分散するなんて、無謀以外の何ものでもないぞ?」
そういいながら、水都さんは剣でシュクレに斬りかかる。
シュクレは盾でガードしようとするが、防御力の低下した盾は吹き飛ばされる。
「キャアッ!?」
「シュクレ!?」
「俺もいるぞ!?」
シュクレが吹き飛んだ先には、月夜さんが待ち構えていた。
手の爪でシュクレをすくい上げると、上に吹き飛ばす。
「「はぁぁぁぁあっ!!」」
シュクレの落下地点に、2人が同時に飛び掛る。
「キャァァァァアッ!!??」
2人の同時攻撃を受けたシュクレの装甲が吹き飛ぶ。
「シュクレーッ!!??」
シュクレがあっという間に戦闘不能に陥る。
「さぁ、後はお前だぞ?」
「これで勝負も終わりだな」
水都さんと月夜さんが構える。
…もうダメなのか…?
「シュクレ、さとる…」
ルセルのいつもなら髪に隠れて見えない左目が露になる。
その赤い瞳は、いつかのように輝き始める。
辺りには、キィンと耳に付くような共鳴音が聞こえ始める。
「…なんだ?」
水都さんと月夜さんが身構える。
ルセルは倒れたシュクレの元に向かうと、もう動けなくなっているシュクレに話しかける。
「シュクレの意思と力、ちょっと借りるね」
シュクレの装備が浮かび上がり始めると、ルセルに装備が装着される。
2人の装備が同時に装着されたルセルは、右肩に巨大なクロー、左肩に巨大な盾を装備していた。
手には2人の装備が合体した巨大な槍を持っている。
「これは…?」
「…これが白魔量産型のリミッター解除か…」
いつのまにか、僕の隣ではお父さんが観戦していた。
隣にはレイニーさんが立っているので、レイニーさんが連れてきたんだろう。
「あのVer.RとVer.Lの装備には合体機能が組み込まれていた。
だが、それは高い出力と重装性能が必要なはず…
…クラウディのような重装が高くレベルの高い神姫ならともかく、白魔量産型のボディでは使えるはずがない。
つまり、あれが彼女の真の力という事だ」
お父さんが説明してくれる。
「…名前を付けるなら、『プランセス ドゥ グラス』…氷の王女ってところだろう。
…やっぱり悟に2人を預けてよかったよ。
2人への愛がなければ、リミッター解除は発動しない。
ちまりちゃんを取り返すんだろう?行って来い!」
「…うん!」
「うわぁぁぁぁあっ!!」
スラスターを噴かしたルセルが敵に飛び掛る。
スピードは全く下がっていない。
≪ズガガガガガッ≫
ルセルは左肩の先に付いたトルテュから機関銃を発射する。
「…なんだか知らないが、1人で何ができる!?」
月夜さんは一度身を隠すと、次の瞬間には4人の月夜さんが現れる。
それを見たルセルは、右肩に装備されているシュクレのランチャーのチャージに入る。
≪ドウゥゥゥゥンッ≫
「くうぅっ!?」
ルセルがランチャーで偽物ごと敵をなぎ払う。
不意を付かれた本物の月夜さんはランチャーが命中した勢いで吹き飛ぶ。
通常時よりも威力が向上しているようだ。
「このぉぉぉおっ!」
水都さんがルセルに飛び掛る。
ルセルはすぐに反応し、いつも以上に長くなっているクローで水都を突き飛ばす。
「…さとる、すぐに終わらせるよ!」
ルセルは月夜さんに向かって突撃する。
まだ倒れていた月夜さんを、クローで水都さんの方に投げ飛ばす。
「これで…とどめだーっ!!!!」
ルセルは手に持った槍を構えると、月夜さんと水都さんの2人ともを直線状に捉え、槍を投げつける。
まず月夜さんに槍が突き刺さると、そのまま水都さんに飛んでいく。
「……!!」
水都さんが身構える暇もなく、その攻撃を受ける。
画面は突然真っ暗になると、メッセージが表示された。
――You Win!
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