「…俺の負けだ。ちまりの事は諦める」
星夜くんは、すっかり落胆したかのように肩を落としている。
「マスターすまない、勝つことができなくて…」
「途中油断した場面が何度もあった、悪かった」
「いや、俺の実力が足りなかったからだ、水都と月夜のせいじゃない…」
星夜くんは神姫たちを慰めている。
…こう見ていると、悪い奴ではないのかも…
「…さすがに分かってたよ、ちまりの気持ちが俺に無いことくらい…
ただ、ちまりが彼女って事がすごく嬉しかったんだ…」
下を向いて震えていた星夜くんは、突然僕のほうを向き直す。
「…次は、俺の実力でちまりをまた彼女にするからな!」
そう言いながら、星夜くんは神姫センターから出て行った。
「ミニーソンくん…」
ちまりちゃんが僕を見つめている。
その目はうるうると今にも泣き出しそうだ。
「ありがとう、ちまりのためなんかにここまでしてくれて…」
「本当感謝するわよ。あんた、意外とやる男だったのね」
「ありがとうー」
姫子さんとアウラさんも嬉しそうだ。ちまりちゃんの様子を一番近くで見ていたのだから当然か。
「…あのね、ちまり、ミニーソンくんとだったら…」
ちまりちゃんの顔が突然真っ赤になる。
「い、いや、僕はちまりちゃんが笑顔でいて欲しかっただけで、それ以上は…!?」
「…そうだよね、今はそれだけでもいいかな」
ちまりちゃんが、昔のような笑顔になる。
この笑顔が見たかったんだ。
「悟くんー、すっごい今の戦い!」
「すごいすごーい!」
「本当に凄い戦いでしたね」
美音ちゃんと雪卯さん達も駆けつけてくれた。
「ちまり、よかったね。これでちまりもアタシと同じフリーだよ」
「うん、そうだね」
美音ちゃんが嬉しそうにちまりちゃんの手を握っている。
やっぱりこの2人は親友なんだな。美音ちゃんも本当に嬉しそうだ。
「うふふ、やっぱりアタシのおまじないが効いたのかなー?」
「おまじない…?」
「そ、それはちょっと…!?」
美音ちゃんの悪戯な一言に、ちまりちゃんが不思議そうな顔をしている。
「ひっみつー、さぁさぁアタシたちは先におさらばしようかなー」
美音ちゃんはそのまま僕たちに背を向けると、入り口の方に歩き始めた。
「あ、そうだ」
途中で振り返ると、笑顔で叫んだ。
「ちまりちゃんに飽きたら、アタシに移ってもいいからねー?」
「みーおー!?」
ちまりちゃんが叫んでいるのを背中で聞きながら、美音ちゃんは走って神姫センターから出て行ってしまった。
「もう、美音はしょうがないなぁ…」
ちまりちゃんははにかむように笑う。
「ミニーソンくん、神姫たちを連れてきてあげたら?」
「あ…!」
ちまりちゃんの言葉に、僕は機械の方に駆け出した。
「…頭が痛い…」
「大丈夫ですか、お姉さま…」
ルセルは頭を抱えて座り込んでいる。
「どうしたの、ルセル?」
「頭が割れるみたいに痛いよ…戦ってるときは気にならなかったけど…」
これはリミッター解除の反動なのだろうか…?
「…本当にありがとう。ルセル、シュクレ」
「いえ、私よりお姉さまを褒めてあげてください」
僕はルセルを手に取ると、目の前まで持ち上げて話しかけた。
「ありがとう、ルセル。そんな苦痛に耐えながら戦ってくれて…」
「…さとるのためだったら、ぼくは…」
ルセルは無理やり笑うと、僕の手に寄り添った。
「…シュクレと一緒にさとるの神姫になれて、よかった」
そういうと、ルセルは眠るように意識を失った。
消耗しすぎてスリープモードになったらしい。
「…マスターとだったら、浮気とは怒れませんね」
シュクレが僕の肩に昇ってくると、ちょこんと座った。
「私もマスターの事が世界一好きですよ、人間の中では…ですけど」
シュクレは肩で立ち上がると、僕の頬にチュッとキスをした。
「ふふ、これは秘密ですからね、お姉さまに怒られます」
「ミニーソンくん、一緒に帰ろうよ!」
ちまりちゃんが、後ろで僕を呼んでいる。
僕が振り返ると、隣に来た並んだちまりちゃんは僕の手を掴んだ。
「できるだけ遠回りして…ね?」
「きぃー!ちまりにこんなに好かれてるなんて、なんて男なのよ!」
「姫ちゃん、姫ちゃんにはアウラがいるよ!」
初めてちゃんと繋ぐ手に2人で顔を赤くしながら、僕たちは帰り道を歩き始めた。
「…お兄様、最後まで勝負を見なくてよかったのですか?」
お兄様は、悟さまの戦いを見終わらないうちに帰り始めた。
私はお兄様の隣に並んで歩く。
「リミッター解除できたならもう心配は無いだろう。
それよりレイニー、今夜の夕食は豪華にしてやってあげてくれ」
お兄様は財布からお金を取り出そうとするが、私はそれを止める。
「いえお兄様、これから私と一緒に買い物に付き合って頂きます」
「…え?」
「それで、今夜の夕食は3人で…いえ、3人と神姫さん達で頂きましょう!」
私がお兄様の手を引っ張ると、いつもなら嫌がるお兄様が抵抗せず着いてくる。
きっとお兄様も、息子の勝利が嬉しくてしょうがないのだ。
私の頭のCPUは、機械らしくもない幸せなリズムを刻んでいた。
「…あれがミニーソン…」
「たしかにかなりの実力です、ですが…」
神姫センターの片隅では、ピンク髪の少年が、天使型の神姫と話していた。
その神姫は、天使型らしからぬ灰色の髪をしていた。
「…そろそろ遊ぶにはちょうどいいかもしれないな」
ピンク髪の少年は、怪しげな笑みを浮かべていた。
COMMENT
ルセルさんとシュクレさんの性格の意味がよく分かりました♪
いつものみんなが大人になるとあんな感じになるんですねー。
感無量ですw
星夜くんは2部になるとツンデレっぽい味方キャラになりそうですね!(`・ω・´)
読んで頂きどうもありがとうございましたm(_ _)m
それなりに長さがあるので、大変だったのではないかと思います。
オニーソンたちの部分は、書いていてかなり楽しかったです。
そこがメインだったんじゃないかというくらい(^^;;;
星夜くんのことはそれ以上言っちゃダメです。ネタバレになりますから(笑)