僕は学校の屋上にいた。
空は綺麗に晴れていて、校庭では体育の授業をやっているのが見える。
1ヶ月前のあの日のように。
僕が神姫と出会ってから、1ヶ月が経った。
今も、ポケットの中には2人がいる。
僕は、一人ではなくなった。
「さとる…難しい顔してなに考えてるの?」
ルセルが不思議そうな顔で僕を見ている。
ポケットから肩に登ってちょこんと座った。
「お姉さま、1人だけ行っちゃうなんてズルいですよ!」
シュクレもそれに続いて肩に登ってくる。
ルセルの横に寄りかかるように座る。
「…シュクレ、重いんだけど…」
「これが私のお姉さまへの想いの重さですよ?」
「勘弁してよ…」
2人のいつもどおりの掛け合いに心が癒される。
機械なはずの2人の心は、人間以上に人間らしい。
「ミニーソンくーん! またここにいたのー?」
屋上の入り口のドアが開くと、ちまりちゃんが現われた。
ちまりちゃんの予知能力は、まだまだ現役みたいだ。
「う、うん、やっぱりここにいると落ち着いて…」
「授業中寝てるちまりがいうことでも無いけど、たまには授業出た方がいいよ?」
ちまりちゃんは地面に座っていた僕の前にくると、僕横に座った。
「ちまりー、アタシを置いていかないでよねー!?」
もう一度屋上のドアが開くと、美音ちゃんが現われた。
「もう、ちまりったらいきなりいなくなったと思ったらこんなところにいたなんて…」
「ちまりちゃんのミニーソンセンサー、すごい!」
美音ちゃんのポケットの中から声が聞こえる。
おそらくゆきうちゃんだと思う。
「今日はミニーソンくんと神姫センターに行きたいなと思ってー」
「そうよ、いい加減私たちにリベンジさせなさいよ!」
「そうだそうだー」
ちまりちゃんの言葉に姫子さんとアウラさんが続く。
そういえばそんな約束もしてたっけ…
「ならアタシのゆきうと雪卯にも稽古をつけてよ、ホントこの2人は弱くて弱くて…」
「すいません…」
美音ちゃんの言葉に思わず謝る雪卯さん。
「まぁゆきうも雪卯も可愛いから大好きだけどねっ」
美音ちゃんは2人を手に持つと優しく握り締める。
強さとかを気にするタイプじゃないもんな、美音ちゃんは…
「ミニーソン、…今日は神姫センターに来てくれる?」
「うん、僕でよかったらついていくよ」
そういうと、ちまりちゃんの顔はさっきよりも笑顔になる。
「よかったねちまりー、ミニーソン来てくれるってさー」
「ちょ、ちょっと止めてよ美音ーっ!」
ちまりちゃんはちょっと恥ずかしそうに手をブンブンと振っている。
「…どうしたんだろう、ちまりちゃん」
「マスターにはまだまだ分かりそうにありませんね」
僕が小さくつぶやくと、シュクレさんから返事がある。
「…これ以上言うのは止めておきます、女の子は複雑なんですよ」
「…よく分からない…」
結局よく分からないまま、僕は屋上の出入り口に向かい始めていたちまりちゃんと美音ちゃんについていった。
神姫センターに入った僕らの目に、モニターに写ったバトルロンドの様子が目に入った。
戦っているのは星夜くんの水都さんと月夜さんと…フェローネとか言う名前の神姫だった。
「あれ…?…星夜くんがいるんだね」
「全く星夜くんも相変わらず性格悪いよねー、2対1じゃない」
ちまりちゃんは少し引きつった表情になり、美音ちゃんは悪態をついている。
たしかにバトルは2対1のようだ。
フェローネという神姫は、どうやら天使型MMS アーンヴァルのカスタムのようだ。
グレーの髪に、赤と黒のボディをしている。
フロントラインの発売したリペイントバージョンともまた別物だ。
「…あの神姫、かなり強いよ」
「はい、水都さんと月夜さんがもう機能停止寸前です」
ルセルとシュクレに言われてLPのゲージを見ると、2人とも残りわずかしかない。
反対に、フェローネという神姫のLPは全く減っていないようだ。
水都さんと月夜さんも必死に攻撃しているようだが、全く当たる気配が無い。
踊るように舞った敵神姫に背後を取られ、2人が同時に機能停止になった。
星夜くんの敗北を告げるメッセージが、画面に表示された。
「くっそぉー、また負けたぁー!!」
星夜くんは滅多に見ないほど激しく悔しがっている。
星夜くんの水都さんも月夜さんもかなり強いはずだ。
「…って悟かよ…かっこ悪いところ見られたな」
星夜くんはバツが悪そうに頭をかいている。
「あの神姫、一体何者なんですか?」
「あぁ、最近この神姫センターのバトルロンドランキングに登場して、突然トップになった神姫だ」
「…2対2のチームバトルに登録しているのに、1体だけでバトルに出てくる。俺たちが負けるのはもう4度目だ」
シュクレの質問に、月夜さんと水都さんが答えてくれた。
たしかにあの実力は異常だ。
「なぁ悟、俺の代わりにあいつにリベンジしてくれないか?」
「え、ええ!?」
「認めたくは無いけど…お前は俺に勝ったじゃないか」
たしかにあの時は星夜くんに勝てたけど、それは半分運みたいなものだ。
実際ランキングでも星夜くんと大差無いかちょっと低いくらいだ。
「まぁそう言わずに頼むよ、この通り!」
「悟くん、男なんだからここは頑張って!」
「ミニーソン、頑張れー!」
…ちまりちゃんにそう言われたら、断りようがないじゃないか…
諦めた僕は、ルセルとシュクレを連れてバトルロンドの機械へと向かった。
「うわぁぁぁぁぁあ!?」
「お姉さま!?」
敵に神姫は戦闘開始直後にこちらに突撃してくると、そのまま前にいたルセルに斬りつけた。
その赤い光の剣を避けることのできなかったルセルが吹き飛んでいく。
「お姉さまはやらせません!」
シュクレはライフルとランチャーを同時に発射する。
しかし敵は踊るようにそれを避けると、ルセルを追いかけていく。
「こ、このっ!」
なんとが起き上がったルセルが斧を構え振り回すが、相手は避けることも無く光の剣で受け止める。
そのまま斧を吹き飛ばすと、ルセルの胸に向かって蹴りを入れる。
「くぅっ!?」
それで吹き飛んだルセルにさらに飛び掛る敵。
…なんでだ?近距離型のルセルばかりを攻撃して、近距離の苦手なシュクレには見向きもしない…
もしかして…そんな弱点をつくような事なんてしなくても勝てるというメッセージだろうか?
敵は両手に光の剣を持つと、ルセルにそのまま斬りかかる。
ルセルにその赤い刃が襲い掛かると、そのダメージでルセルのLPは0になった。
「ごめん、ぼく、もうダメ…」
「お姉さま!?」
ルセルがそのまま機能を停止する。
シュクレはルセルの元に駆け寄るとルセルを見つめた。
シュクレが顔を上げると、そこにはシュクレには珍しい怒った顔があった。
「お姉さまをここまで…許しません!」
高く澄んだ共鳴音が鳴り響く。
機能を停止したルセルから、装備が浮き上がりシュクレに装着される。
あれは…リミッター解除!?
「お姉さまはマスターの大事な神姫です。そして私の世界一のお姉さまでもあります。
それをここまでした…許してもらえるとは思わないで下さいね!」
シュクレをブースターを噴かし飛び上がると、足にスキーを装着する。
そのまま全速力で敵の周りを回るように旋回しはじめる。
「このぉぉぉぉおっ!」
シュクレが装備を合体させたランチャー…『ブランノワール・シス』を敵に向かって発射する。
敵はそれを避けるが、避けた先にさらに攻撃を重ねる。
「逃がしませんよ!」
シュクレはスキーをランチャーに戻し肩に装着する。
そのままランチャーも発射する。
≪ドゥゥゥゥン≫
ランチャーの衝撃で敵の立っていた足場が崩れる。
足を取られた敵に、シュクレはブランノワール・シスで追撃する。
「…!」
敵に突き刺さる氷の槍。
しかし、足に突き刺さった氷の槍を無視し、敵はシュクレに向かって飛び掛る。
「な、何故です!?」
盾で敵の光の剣を防ぐが、2本目の剣の攻撃を防げずダメージを負うシュクレ。
「…こうなったら!」
シュクレはブランノワール・シスを前に構えると、そのまま敵に突撃する。
ブランノワール・シスの先端の刃が、敵の胸を突き刺す。
「これでも…食らってくださいっ!!!」
突き刺した状態でブランノワール・シスが発射される。
あまりに距離が近すぎたせいで、発射したシュクレも吹き飛んでいく。
―――You Draw
最後の攻撃で、敵もシュクレも機能停止したらしい。
画面には引き分けを現すメッセージが表示されていた。
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