中学校の前まで来ると、校門は完全に閉ざされていた。
本来は防犯用のはずの電流網は、ビリビリと聞こえるほどの電流が流れている。
「…無理矢理は入れそうにないね」
「むりむりー」
美音ちゃんの素直な感想に、ゆきうちゃんも素直に返す。
「…俺達が侵入するってわけにも行かなそうだな」
「む、むりだよー」
ラパンとトルテュも研究所から連れてきた。
ラパンの言葉に、トルテュは小さく震えている。
「…こんなときこそ神姫の出番だろ?」
星夜くんは、端末に水都さんと月夜さんをセットし始めている。
「さとる、ぼくらも…」
「お前達はまだいい、まずは俺達が出方を見る」
そういうと星夜くんは、二人をネットワークに送り込んだ。
「…なんだこりゃ、これじゃまるで廃墟じゃねーか…」
月夜さんの言う通り、ネットワークの中には廃墟が広がっていた。
僕達は皆端末をネットワークに接続する事によって、ネットワーク内部の状況を端末で見る事ができる。
「…敵は見当たらないな」
「ケッ、チキン野郎じゃねーか…」
月夜さんがいらいらしたのか落ちていた石を蹴り飛ばす。
「…私を鳥呼ばわりするなんて、なかなか言うじゃない」
突然声が聞こえると、黒いツインテールをひらひらと舞わせながら、神姫が現れた。
あれは神姫センターで出会った…そう、アイニと名乗っていた神姫だ。
「…てめぇがここの門番ってわけか?」
「えぇ…こんな入口で不本意だけどね」
言葉が終わる前に月夜さんは駆け出していた。
一瞬にして敵の目の前まで走り抜けると、爪を振り回す。
「あら、乱暴なのね」
敵は突然煙のように消えてしまうと、また別の場所から現れた。
…なんだ?移動した感じはしなかったのに…
「…端末で見える範囲では、何をしたのかわかりません」
シュクレにもわからなかったらしい。
「ねぇさとる、ぼくたちもネットワークに入ろうよ」
「そうよちまり、8対1だったら楽勝じゃない」
ルセルと姫子さんの言う事はもっともだ。
僕とちまりちゃんと美音ちゃんも、ネットワークに入ろうと端末を弄り始める。
「…ダメだ、もうネットワークが封鎖されてる」
ネットワークは既に次の神姫の侵入を拒んでいた。
「ダメよ、レディに何人相手をさせるつもりなのかしら?」
アイニはやれやれといった風に手を振っている。
「…それなら何故私たちを招き入れた?」
「知りたいのよ、あなたたちがどこまでできるのかがね」
剣を抜きアイニに向けた水都さんに、余裕の表情で返すアイニ。
「あなたたちを閉じ込められた時点で私の目的は終わり、後はもう入ってもいいわ」
アイニがそう言った瞬間、校門はスルスルと開き始める。
「…私たちと戦いたいだけという事か」
「てめぇ…後悔するぜ?」
水都さんと月夜さんは、アイニに向かって走り始めた。
「…お前達は先に行ってくれ」
星夜くんが端末を握り締めながら話し始める。
ネットワーク内では、水都さんと月夜さんがアイニと激しく戦っている。
「でも…」
「あいつの気が変わって入口を閉められたら笑えないだろ?
水都と月夜は大丈夫だ、あいつらは強いからな」
心配する美音ちゃんに、星夜くんは自信に溢れた顔で答える。
たしかに、あの2人ならそう簡単に負けることはないだろうが…
「グズグズしてないでさっさと行けよ、悟!」
「…分かった!
行こう、ちまりちゃん、美音ちゃん!」
端末を一度閉じ、2人を見る。
「…悟くんにそんな風に言われるときが来るなんてね~」
「行こう、ミニーソンくん!」
2人と共に校門を通ると、校舎に向かって走り始めた。
…やれやれ、ようやく言ったか、めんどくさい奴らだ…
悟たちが校舎に入っていくのを見届けると、端末の画面を見つめる。
ネットワークの中では、水都と月夜がアイニと激しくぶつかり合っていた。
「…オラオラぁ!」
月夜のラッシュを、アイニは軽くかわしている。
アイニは手からまた黒い球体を発生させると、月夜に向かって投げ付ける。
「くぅっ!?」
避け切れずに直撃を食らう。
…まずい、これ以上はLPが持たない…!
「なんの、まだまだ…!」
「…もういい、後は任せておけ」
倒れた月夜の横に水都が立つ。
「あらあら…2人がかりでも勝てていないのに、1人でどうする気なのかしら?」
アイニの話を無視して、水都はアイニに剣を向ける。
「ここまでの月夜の戦いは無駄じゃない、ここからも私たちは一緒だ」
「ふーん、仲間想いなのね」
「…海の上で仲間を大事にしないなんて、馬鹿のすることだからな」
水都は反対の手でナイフを抜く。
「海賊の流儀って奴を…教えてやる!」
言い終わると同時に、ナイフをアイニに投げ付ける。
「あら、怖いのね」
それをかわしたアイニは、黒い球体を3つ水都に飛ばす。
「…甘い!」
水都は右手に大剣、左手に剣を持つと、黒い球体にそのまま突撃する。
≪ドォォォンッ≫
黒い球体が爆発した中から、剣を盾にした水都が現れる。
アイニの目の前まで駆け抜けた水都は左手の剣を捨てると、両手で大剣を振りかざす。
「決めさせてもらう!」
水都は大剣でアイニを空に打ち上げると、自分も飛んで後を追う。
≪ズガガガァッ≫
「くぅ…!」
まるで大きさを感じさせない剣捌きでアイニを切り刻む水都。
よし、これなら…!
「これで最後だ!」
水都は大剣を一度頭上に振り上げるとアイニごと地面に叩きつける。
≪ヒュン≫
「なにっ!?」
地面に倒れたはずのアイニが忽然と消える。
「…今のはたしかに危なかったわ」
突然水都の前方に現れたアイニ。
今ので倒れたはずなのに、どうして…
「…技の途中で脱出していたのか」
水都は察したらしい。
「あんたは全力で当たらなきゃいけない相手みたいね」
体の回りに黒い球体を大量に筆跡させる。
「こちらもだ…行くぞ」
水都は唯一の武器となった大剣を手に、アイニに向かって走り出した。
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