私…クラウディの前には、黒い天使型アーンヴァルが立っていた。
その背中にはブースターのようなものを背負い、右手には赤い剣を持っている。
「クラウディ、敵の様子は?」
「…動きはありません」
お兄様から通信が入る。
お兄様によるハッキングで、敵の本拠地までネットワーク経由で近づくことができた。
「頼む、悟たちに危険を侵して欲しくはないんだ」
「分かっています、悟様たちが来る前に終わらせます」
私はライフルを構えるが、相手は動こうとしない。
「あなた方のことは調べさせていただきました。
少し前からハッキングを繰り返していたこと、そしてバトルロンドでもデータの改ざんでランキング1位になっていたことも…」
「…」
「フェローネさん、…そして『K』、あなたたちの目的は一体…?」
敵は答えはしない。
…言う理由がありませんか、それなら…
「力づくで行かせて頂きますっ」
ライフルの引き金を引くが、敵も瞬時に反応して回避する。
やはり普通の攻撃は当たりませんか…
ライフルをバックパックに装備し直し、ランチャーモードで発射する。
「…!」
またしても敵にビームを回避される。
凄まじいまでの回避力…噂で聞いたのと一緒だ。
「クラウディ、新しい装備の調子は大丈夫か?」
私がいま装備しているのは、バックパックに装着するとランチャーとしても使えるライフルと、ハンドガンがメインとなる装備だ。
試作品だが、私の戦闘スタイルに合っているので持ってきて頂いた。
「はい、何の問題もありません!」
敵の足元まで走ると、ハンドガンを敵に向け発砲する。
距離が近いにも関わらず、敵は最低限の動きで銃弾を避けた。
「…クラウディさん、貴女の事はできれば倒したくない…」
「…舐めないで下さい!」
敵のいる高さまでジャンプし、足で蹴りつける。
「歴史通りにやるしかありませんか…」
敵は蹴りを避けながら剣を構える。
「ようやくやる気になりましたね!」
ミサイル1から4、セーフティ解除…ロックオン完了。
敵に狙いを定め、足のミサイルを発射する。
≪ドゥゥゥンッ≫
敵は飛んでくるミサイルを剣で切り落とす。
「…行きます」
敵は一気に私の前まで飛び込んでくる。
私もハンドガンを構え、引き金を引いた。
「…頼むクラウディ、勝ってくれ…」
オーベルジーヌ社のモニターには、クラウディとフェローネの激闘が映し出されていた。
なんとかネットワークにハッキングし、クラウディを送り込むことはできた。
ここであの神姫を倒しネットワークを奪い返せば、今回の事件は解決するはずだ…
今回のネットワーク侵略の発信源である学校には、悟たちが向かっている。
彼らの強さを疑ってはいないが、何も起こらないに越した事は無い。
「キャッ!?」
「大丈夫か、クラウディ!?」
「は、はい、大丈夫です!」
僕の横には、クラウディ…いや、レイニーの空っぽのボディが残されている。
たしかにクラウディは強いが、レイニーから意識を移すシステムには若干の不安がある。
できれば、長期戦はさせたくない…
≪ピーピー≫
横にあるパソコンから、悟たちが学校のネットワークに侵入した事を確認したアラームが流れる。
どうやら、学校内のセキュリティをちょっとずつ解除しているようだ。
…この調子なら、悟たちが追いつくのもすぐだろう。
「クラウディ、頑張ってくれ…」
モニターの中ではまだ戦いが続いている。
2人の実力はほぼ互角に見える。
…頼む、悟たちに、こんな戦いはさせたくないんだ…
「くぅっ!?」
敵の斬撃によって左肩のアーマーが破壊される。
ミサイルは撃ち尽くし、ライフルも銃身が途中で切られている。
残る武器はハンドガンくらいのものだ。
「私は、こんなところで負けるわけには…!」
「…この時代の技術じゃ、私を超えることはできない…」
敵の斬撃は見えないくらい早く、全てを回避する事はできない。
私の攻撃も何度かは当たっているが、全て急所を外されている。
「…っ!?」
突然頭痛が走る。
痛みで目を瞑りもう一度開くと、目の前が白黒に映る。
「なんで…!?」
「クラウディ、どうした!?」
目の前にエラーメッセージが表示される。
元の体から意識を移すプログラムから発信されたもので、ボディとの接続の不備が警告されている。
「…いえ、なんでもありません」
ダメージの多さのせいで、プログラムに異常が発生したようだ。
でも、こんなところで終わるわけには…!
「このぉぉぉお!」
ハンドガンを敵に向かって発砲するが、またしても軽々と避けられる。
手がぶれて、うまく狙いをつけることができない。
「…私も負けるわけにはいかないんです、ごめんなさい」
≪ズシャァアッ≫
敵の剣が勢いよく振られると、ハンドガンごとバックパックまでが切り裂かれる。
「…!」
「…終わりです」
敵は再び剣を振り上げると、私の胴体に向かって剣を横に振りぬく。
お兄様…ごめんなさい…
私は身体に痛みを感じながら、意識を失った。
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