「あれ、美音ちゃん…?」
廊下に出てみると、美音ちゃんがいなくなっていた。
さっきまで、ここで見張っていたはずなのに…
「ねーねー! こっちだよー!」
廊下の窓の所に小さい方のゆきうちゃんが立っている。
「美音ちゃんと雪卯さんは…?」
「襲ってきたお掃除ロボを追いかけて行っちゃったー、ゆきうはお留守番だよ」
そっか…無事だといいのだけど…
「僕は敵の本拠地を目指すから、ゆきうちゃんはちまりちゃんのところに一緒にいてあげて?」
「りょーかいしました!」
ゆきうちゃんは窓から飛び降りると、ちまりちゃんの方に走っていく。
…僕達も行かなくちゃ。
「敵の場所の見当はついてるのか?」
「さとる、大丈夫だよね?」
ラパンとルセルが心配そうな顔をしている。
「場所がわからなくちゃ、たたかえないよ…」
「大丈夫ですよ、マスターならすぐに見つけてくれます。
慌てるトルテュをなだめるシュクレ。
…早く敵の場所をはっきりさせなくちゃ。
端末からネットワークの状況を確認する。
あとネットワークが乗っ取られているのは、コンピュータ室を残すだけになった。
「…わかった、コンピュータ室に行ってみよう」
ルセルとシュクレをポケットに入れると、階段に向かって歩き始めた。
コンピュータ室にも人はおらず、静寂に包まれていた。
早速一台パソコンを立ち上げると、パソコンに端末を接続する。
「どうするの、さとる?」
「まだセキュリティを解除しきれてないから、こっちから入口を探すよ」
起動したパソコンに、まずは端末に入っていたセキュリティソフトを移す。
設定も見直し、このパソコンの安全を確保する。
「すごいです…」
「マスターは機械の操作はすごく得意ですもんね」
トルテュとシュクレに言われると少し照れる…
…よし、これで準備は完了だろう。
「ルセル、シュクレ、敵はこの学校内のどこかにいて、このコンピュータ室のサーバーからハッキングをかけている。
ここに最後の敵がいるはずだ。本人を見つけられてないのが残念だけど…」
「仕方ありませんよ、今は私たちにできることをやりましょう!」
「うん、戦いはぼくたちに任せてね」
シュクレやルセルに今までの戦闘のダメージは無いようだ。
「…よし、まずはルセルとシュクレに侵入してもらうよ。
ラパンとトルテュは2人が状況を見れてから続けて進入する」
僕はルセルとシュクレをそれぞれ右手と左手に乗せると、顔の近くに持ってくる。
「…今まで以上に危険な戦いになると思うけど…お願い、ルセル、シュクレ」
「任せてよ、さとるのためだったらいくらでも戦えるから!」
「はい、心配は無用ですよ、マスター」
…よし、行こう、僕らの戦いに…!
ルセルとシュクレを端末にセットし、ネットワークに侵入させる。
…無事帰ってきて、ルセル、シュクレ…
侵入した先には、ボロボロの神姫が1体と、あの星夜君を負かしていたフェローネとかいう神姫が待っていた。
フェローネはこちらが来たのに気がつくと、忽然と姿を消した。
「…あの神姫は…!?」
ルセルがボロボロの神姫に駆け寄る。
その神姫は…クラウディさん!?
「…ルセルさん、シュクレさん、早かったですね…」
「どうしたんですか、こんなボロボロに…!?」
クラウディさんのボディは装備が全て破壊されており、素体にもかなりダメージが残っている。
「…お兄様のために勝つ気でいたのですが、負けちゃいました…
でもお2人が来てくれてよかった、後はお願いします」
「は、早くここから離れないと!?」
ルセルがクラウディさんを背中に背負おうとする。
「…やめてください、私はもうここで消えることが決まっています」
「何故です…!? ネットワーク内で負けたとしてもただ意識がボディに戻るだけじゃ…」
「…私は極めて特殊な神姫です。異常が発生してしまった以上、もう助かりません」
クラウディさんはルセルの背中から無理やり降りると、地面に倒れこむ。
「…悟さま、お父様にメッセージをお願いしていいですか?
お父様は、このネットワークから切断されてしまったようです」
「…お父さんに?」
クラウディさんはお父さんの神姫だと聞いている。
でも、特殊な神姫って一体…
「…私はこの数十年間、お兄様と一緒にいられて幸せでした」
クラウディさんはゆっくり話しはじめる。
…数十年って、神姫がまだ発売されてないんじゃ…
「私はヒューマノイドでしたが、お兄様の事を愛していました。
機械の心の勘違いではとずっと自問自答していましたが、この気持ちは…愛なのだと思います」
クラウディさんの目から涙が流れる。
「私は、ずっとお兄様をお慕いしています…
…できることなら、また会える日を楽しみに…」
それだけ言うと、クラウディさんの体はネットワークから煙のように消えてしまった。
「…クラウディさん!?」
「どこいっちゃったの!?」
シュクレとルセルが慌てて辺りを見渡すが、どこにもクラウディさんの姿はない。
「…仕方がないんです、ここで死ぬのがその方の運命ですから…」
突然闇の中からフェローネが現れる。
「…お前が…クラウディさんを?」
ルセルがフェローネを睨みつける。
「はい、私が倒しました。
それが未来へと続いていく運命ですから…」
「…許さないっ!」
ルセルが一気にスラスターを噴かして飛び掛る。
しかし、フェローネはひょいとそれを避ける。
「しかし、ここからは未来でも分かりません。
この戦いの結末は…今ここで決まります」
フェローネは一度2人から距離を離すと、剣を2人に向かって構える。
「…ここからは神姫だけの戦いです。覗き見は禁止ですよ」
突然パソコンの画面が黒く埋め尽くされていく。
…あれだけの準備をしたのに、もうハッキングされたのか…!?
「まずい、これじゃ戦いの様子すら見えないぞ!?」
ラパンは画面に飛び込むんじゃないかという勢いで画面と僕の顔を交互に見ている。
これはまずい…早くもう一度ネットワークに接続しないと…
「ラパン、トルテュ、キーボードから離れて!
大急ぎで今のネットワークに接続するよ!」
…待っていて、ルセル、シュクレ…
ポケットの中に入っていた『切り札』のメモリーカードを取り出し机の上に置くと、再び接続し直す為のプログラムを打ち始めた。
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