「お兄ちゃん…またこんな所にいたの?」
「いいじゃないかよ、今日の試合はこの界隈で有名な法望高校の星夜さんが出るんだぞ!」
「神姫バカなお兄ちゃんに何を言っても無駄よね…どうせ自分は神姫持ってないくせに」
「それは言うなって言ってるだろー!」
俺は七樹 赤哉。中学二年生。
こうやって学校帰りに、毎日のように神姫センターに通っている。
妹が言うように神姫は持ってないけど、神姫の熱いバトルを見るのは楽しいからな!
「おじいちゃんが今日はみんなでタコ焼きパーティーしたいから早く帰ってきてほしいって…」
「またタコ焼きかよ、昨日もタコ焼きパーティーだったじゃんか…じいちゃんついにボケたかな」
「そんな事ないわよ、おじいちゃんはただタコ焼きがすごい好きなだけなの!」
必死にじいちゃんのフォローをしているのは、俺の妹の抹黄。
抹黄は中学一年生、一歳しか変わらないから俺よりしっかりしてて色々と小うるさいんだよな。
「そんなに神姫が好き…?」
「な、なんだよ、急に…」
神姫のバトルをモニターで食い入るように見ていた俺は、モニターからようやく目を離し抹黄の方を見る。
なんだなんだ、また泣き真似でもするのか…
隣に座っている抹黄は、学校の鞄をガサゴソいじりながら俯いている。
「お、おい…」
俺が心配して抹黄の肩を揺すると、抹黄は俯いていた顔を一瞬で上げた。
「これ、もらっちゃったの!」
妹の持っているのは、緑っぽい神姫…これは…
「一体、どうしたんだよ、それ!?」
俺が椅子から立ち上がり大声で叫ぶから、センター内にいた人々が一斉にこちらに視線を送る。
「「す、すみません…」」
俺と抹黄が頭をペコペコ下げて謝ると、センター内はまたいつも通りに戻る。
「リーシャなのです、よろしくなのです!」
「わっ…しゃべった…」
「当たり前じゃない、神姫なんだから」
妹に言われるのもどうかと思うけど、いくら神姫好きな俺もこうして神姫が目の前にいてしかも俺に向かって喋れば知っていても驚いてしまう。
「あのね、お兄ちゃんに内緒にしてたんだけど、オーベルジーヌ社まぼろしの試作型プレゼントに私も応募していたの!」
「お、お前も応募してたんだ…」
オーベルジーヌ社、設立25周年の企画だったアレだ。
オーベルジーヌ社はこの近所にあるらしく、憧れの星夜さんの使う神姫もそこの神姫だから俺も好きな会社だった。
まさか、オーベルジーヌ社のまぼろしの試作型をこんな近くで見る事が出来るなんて…
「リーシャ、普通の神姫みたいにマスターがほしかったのです!」
「最終選考でこの子、私をマスターに選んでくれたのよ!」
「という事は…」
なんだかものすごーく、嫌な予感がしてきたぞ…
「ごめんね、お兄ちゃん~お兄ちゃんより私の方が先に神姫マスターになっちゃって♪」
「く、くっそー!」
俺はあまりの衝撃のあまり、目の前のテーブルに突っ伏すしかなかった。
神姫バトルをリアルタイムで流しているモニターに、憧れの星夜さんの神姫が出ていたが今はとてもじゃないけど見れるような気分になれなかった。
「これからよろしくなのです、マスター♪」
「よろしくね、リーシャちゃん♪」
とても楽しそうな二人の声が聞こえる。
なんだか分かんないけど、とにかく悔しい!
まさか大の神姫好きの俺を差し置いて、妹の方が先に神姫のマスターになるなんて!
こういう時ばかりは自分の生まれを呪ってしまうな。
俺も金持ちに生まれてたら…バイト出来るような年齢なら…色々考えてさらにへこむ。
まぁ、いつまでも落ちててもしょうがないから、ここは前向きに考えよう!
「なぁ、抹黄…よかったら…さ…」
「いっ、嫌よ! 私の可愛い神姫をバトルに出すなんて許さないから!」
「リーシャはマスターと一緒にいれれば、それだけで幸せなのです~」
やっぱり、駄目か…
神姫バトルに参加するのも、俺のもう一つの夢だったんだけどなぁ…
「あ、そういえば…」
「なんだよ…」
「私がマスターとしてちゃんとやれてるか、リーシャちゃんは元気でいるか見たいから二週間後にまたオーベルジーヌ社に来てほしいって…」
「二週間後にリーシャの実家を案内するのですよ~」
それだっ!
俺の頭の中が眩しいまでの神々しく輝く光に満ちてきた。
憧れのオーベルジーヌ社を見学出来る機会なんて、そうある事じゃない!
「という事で、二週間後は俺も一緒についてくから…」
「やっぱりそう言うと思ってたよ、お兄ちゃんなら」
抹黄は自分の手の平に乗せたリーシャと一緒にニコニコしている。
「なんだか今からすごく楽しみでたまらなくなってきたぜ!」
俺がテンション高く声を上げると、抹黄が恥ずかしいからやめてと小声で言ってきた。
こんな嬉しい状況でテンション上がらないわけないだろ!
俺が上機嫌で流行りの歌を歌い始めると…
「試合終了ですー! 今回も圧倒的な大差をつけて、星夜さんの神姫・月夜が勝利しましたー!」
なんて実況の声が、近くのモニターから聞こえてきた。
「やばい…星夜さんのバトルをすっかり見逃しちまった…」
もう今日はがっくりしたり、テンション上がったりと大変だ。
でも、子供の頃からずっと神姫を好きでいてよかったとここまで思う日は他にないだろう。
「やっぱり神様はちゃんと見てるんだね~」
「さっきから本当忙しいわね、お兄ちゃん…」
「元気になったり、元気なくなったり面白いのです!」
俺の心はすでに二週間後に、大ファンなオーベルジーヌ社に行けるという事だけでいっぱいだった。
「ほんと楽しみだぜ!!」
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