「やっばいなーすげぇ緊張する…どんな格好していけばいいかな?」
「もう、お兄ちゃんはただのオマケなんだからどんな格好でもいいわよー」
そう…ついにその日は来たのだ。
今日は俺が大好きなオーベルジーヌ社に初めて行く日!
本当は妹の抹黄がもらった神姫のリーシャを見てもらうってのが目的なんだけど。
「お兄さん、楽しそうなのです~リーシャも久しぶりの実家が楽しみなのですよ!」
緑髪のツインテールをゆさゆさ揺らして跳びはねているのが、妹の神姫のリーシャ。
古臭い家にこんなハイテクノロジーなのがいるのが、なんか変な感じ。
「まだまだ慣れないなぁ…リーシャがうちにいるの」
こたつ机の上で跳びはねているリーシャが家にいる事が本当に不思議だ。
「ははは、妖精さんかわええのう…」
うちのじいちゃんは相変わらず、この神姫という存在が何なのか分かってないらしい。
俺たちが何度説明しても駄目だったから、タコ焼きの妖精さんやなとしか言わないからもう諦めた。
まぁ、小さい頃に両親を亡くした俺たちをここまで育ててくれた、じーちゃんとばーちゃんには本当に感謝してるけど。
「ほら、お兄さん…早く行かないと時間が…」
「分かってる、今行く!」
「楽しみなのです~♪」
俺たちは足早に家を出ようとすると…
「いってらっしゃい、これ持っていきなさい」
ばーちゃんが俺と抹黄におにぎりと水筒を持たせてくれた。
うーん、別に遠足に行くってわけじゃないんだけどなぁ…
「お兄ちゃんが楽しみすぎて寝れないとかうるさいからよ」
抹黄は呆れた様子でばーちゃんから受け取ったおにぎりを鞄にしまっている。
「でも、よかったな…ばーちゃんのおにぎり旨いし」
「ちょっと、食べてる暇なんてないのよ! 早く行かなきゃ、お兄ちゃん!」
抹黄は俺を叱ると急に俺を置いて走り出した。
「ま、まっへふれーー」
俺はおにぎりで口をいっぱいにしながら、妹を追いかけて走る。
「七樹 抹黄さま…ですね…?」
「は、はい…遅れてしまってすみません…」
「大丈夫ですよ、えっと隣にいる方は…?」
何とかギリギリで約束の時間に、オーベルジーヌ社にやってきた俺たちは大きな門をくぐり立派な建物に入った。
そこで待っていたのは、ピンク色の髪をしたメイドさんだ。
「メイドさんとかすげぇー! オーベルジーヌ社、すげぇ!!」
こんなにすごい建物の中に入るの初めてだし、本物のメイドさんを見るのも初めてだ。
俺は初めて来た、憧れの会社にものすごく興奮していた。
「こっちの変なのは…私の兄です…どうしてもこちらを見学したいと聞かなくて…」
「抹黄さまのお兄様ですか、大丈夫ですよ…今日は社員のほとんどは休みなのでお好きに見学していって下さい」
「や、やったぁー!」
俺が跳びはねてガッツポーズを決めると、ピンク髪のメイドさんがにこやかに俺を見ている。
なんだか恥ずかしくなって、急に黙ってしまう。
「それでは、抹黄さまと抹黄さまのお兄様…研究所の方へご案内致します」
ピンク髪のメイドさんは、俺たちをオーベルジーヌ社の研究所の方へ案内してくれた。
いくつも部屋があったが、一番奥の部屋に通された。
「わぁ~久しぶりの実家の空気は新鮮なのです~」
リーシャは抹黄の鞄から出てくると、そのまま通された部屋の奥へ走っていった。
「ちょ、ちょっとリーシャ…勝手に行かないでー!」
抹黄は慌ててリーシャを追いかけて走っていく。
「それにしてもすごいなぁ…ここ! とりあえず、携帯で写メっちゃうぜ!」
たくさんの研究機材や、並べられている神姫たちを携帯で写真に収める俺。
もう楽しくて楽しくてたまらなかった。
「ふふ、喜んで頂けて私も嬉しいです…こちらにお飲み物とケーキをご用意しましたのでよかったらどうぞ」
先程のピンク髪のメイドさんが、俺たちのために紅茶とケーキを用意してくれていた。
「わわ、なんかすいません…えっと頂きます!」
こんな高級そうなケーキなんか今まで食べた事なかったから、こんなすごいのを出してもらえて本当に驚いた。
「今すぐ担当のものを連れて参りますね」
メイドさんは俺がケーキを美味しそうに食べているのを見てから、担当者さんを呼びに部屋を出ていってしまった。
「そういや抹黄は…まぁいいか、こっちも俺がもらっちまおう」
俺が抹黄の分のケーキに手を伸ばそうとすると…
「貴様、勝手に人の分まで食べるとは最低な人間だな…」
どこからか急に声がした。
抹黄はここにはいないし…どこから声がするんだ。
俺はフォークを握り締めたまま、部屋中をキョロキョロ見渡す。
「ここだ、愚か者…私の姿に気付かぬとは…」
「な……し、神姫!?」
俺の足元にそいつはいた…赤い燃えるような髪をした神姫。
なんかリーシャより小さい気がする。
…というか、こんな神姫見た事ない…新しい神姫か!?
「えっと…君はここの新しい神姫なのか…?」
「そうだ、さっき数分前にテスト起動させられた」
テストと言う事はやっぱり新型なわけで…
「ひゃっほー! オーベルジーヌ社の新作の神姫を拝めるなんて!!」
俺は自分の足元にいた赤い神姫を手に取ると、嫌がってるのも無視してじろじろと見始めた。
「すげーカッコイイな! やばいよ、新しい神姫が見れるなんて幸せだっ!」
「は、離せ…乱暴者…」
せっかくだから写メらせてもらおうかなと思って携帯を取り出した所で、抹黄がやたらと神姫を連れて戻ってきた。
「もう困っちゃったわ…この子たちみんな、リーシャの家族なんですって… 」
そういう抹黄の足元に神姫が何体がぞろぞろと…
「おおっ、すげーすげー! そっちの神姫たちも見せてくれ!」
俺は赤い神姫を持ったまま、抹黄たちの元へ駆け寄る。
「こらっ…離せと言ってるのに…」
「お兄ちゃん、その神姫どうしたの…また勝手なことしちゃった?」
「あ…」
興奮のあまり気付いてなかったけど、ずっとこの赤い神姫持ってた。
「ご、ごめんなさいね、神姫さん…お兄ちゃんも早く謝って!」
抹黄に言われ、俺は握り締めていた神姫を今度はちゃんと手の平に乗せる。
「ご、ごめんな…俺…」
「本当に乱暴な奴だ、こんな奴が君の兄なのか!」
「こっ、こいつ…!」
あまりにもキツイ事を言われるので、なんだか少し腹が立ってくる。
抹黄にお願いだから余計な事しないでと言われたから、その苛立ちは頑張って抑えたけど…
「あ、ガレットじゃない~どうしたの?」
「リーシャちゃんが帰ってきたんですよ、一時的ですが」
抹黄の足元にいる白髪の神姫と長い黒髪の神姫が、今走ってやってきた赤い燃えるような髪の神姫と話している。
あれ…この赤い髪の神姫って…
俺は自分の手の平にいる神姫と、抹黄の足元にいる神姫を見比べる。
「あれ…お前たち、全く一緒…」
「あんなのと一緒にするな!」
「そんな所にいたのですか…あなたは今はテスト起動の身、早く悟さまの元へ戻って…」
もう一人の赤い神姫に何か言われた、俺の手の平にいた神姫が急に俺の手の平から飛び降りて走り出した。
「おっ、おい…!?」
あんな高さから落ちて大丈夫なのかと心配したが、かなり身体能力が高いらしく何事もなかったように走っていく。
「待ちなさい、早く悟さまの元へ…!」
何かを言った方の赤い神姫も追いかけて走って行く。
そんな騒動の中、部屋の扉がガチャリと開いてある人物がやってきた。
「すみません、お待たせしてしまって…」
品の良さそうな金髪の青年がぺこりと頭を下げる。
まさか、この人が…!?
「リーシャの担当をさせて頂く、堂元 悟です」
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