「お兄ちゃん、カッコイイじゃない~」
「ヒューヒューなのですよ!」
なんだか、こいつらの視線がやけに刺さるな…
抹黄にくいくいと肘で突かれ、リーシャも抹黄と同じようにニヤニヤと俺見ている。
「まさかなぁ…お前らに見られてたなんて…」
先程、リプカの話をしていた悟さんと俺をどうやら見ていたらしい二人…
悟さんはその後にまだ名前のなかったリプカに名前をつける作業をしてくれて、その後にようやくリーシャの検診をしてもらった。
そして今、俺は眠ったままのリプカを危なくないようにしっかり持ちながら、抹黄たちと一緒に家に向かっている。
「こんなにオマケももらっちゃったしね♪」
「おじーちゃんとおばーちゃんが喜ぶのですよー」
抹黄の手には待たせてしまったお詫びにと、悟さんが俺たちにくれたフルーツ盛り合わせと高級お菓子のセットが多数…
「確かに今日は良い事ばっかりだったよな、まさか俺まで神姫のマスターになっちまうなんて!」
俺は自分の手の平に乗っている赤髪の神姫をじっと見つめる。
さっき出会ったばかりの頃はあんなに威勢がよかったのに、こんなに可愛い寝顔を見てしまうとなんだか別人にすら見える。
「私もお兄ちゃんもこの二週間たらずで神姫のマスターだもんね…ほんと不思議」
「リーシャはマスターに出会えて幸せなのですよ、夢が叶って本当に嬉しいのです」
そんな会話をしている抹黄とリーシャがものすごく幸せそうに見えた。
俺もリプカとあんな風になれるかな…って期待してみたけど、あの威勢のいいリプカを思い出したら難しそうな気がしてきた。
「おじいちゃん、おばいちゃん、ただいま!」
「ただいまなのですよー」
そんな二人の声がして顔を上げれば、目の前には見慣れた古臭い家が…
「全く、正反対な世界だったぜ…まぁ俺にはこっちの方が落ち着くけどな」
近未来的なオーベルジーヌ社を思い起こしながらも、愛着のある素晴らしい家に入っていく。
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「お兄ちゃーん、明日も早いんだから早く寝なね?」
「分かってるって、うっさいなぁ…」
「マスター、リーシャ今日もマスターのお布団で一緒に寝たいのです!」
俺にいつものお小言を言うとすっきりしたような顔で、リーシャと共に自分の部屋へ帰っていく抹黄。
「おやすみなさーい」
「はいはい、おやすみ」
「おやすみなのですよー」
二週間前からおやすみなさいと挨拶を交わす相手がさらに増えた。
そして、さらにもう一人…俺の部屋の机で横たわっているリプカは今だ目を覚ます気配がない。
俺はすでに寝ているじーちゃん達に迷惑かけないよう、いつも通り静かに布団を引きはじめる。
「う……ん……」
俺が一瞬目を離している間に、微かだけど声が聞こえた。
それは、俺の机の方から。
「大丈夫か…リプカ…」
俺はそっと机に近付き、少し苦しそうな表情をしているリプカに声をかける。
「や…やめ…」
悟さんにはリプカの傷ももう治っているし、電池の消耗も回復しているからそのうち目覚めるだろうと言われていたけど…
今のリプカは意識はあるものの、何だかとても苦しそうだ。
「おい…しっかりしろ、リプカ…」
俺は苦しそうなリプカ手の平に乗せ、もう片方の手でその小さな体を優しく撫でた。
「わた…しは…きえ…たく…ない…消えたく…ない…」
あまりに小さな声で言っているので必死にその声を聞こうと、俺はリプカの体に出来るだけ耳を近付ける。
「消えたくない…消えたくない…!」
「お前はちゃんと生きてるよ、リプカ! 目を開けて見てみろ、お前はちゃんといる!」
俺は苦しそうなリプカの体を撫でながら、必死に訴えかける。
あの時の消えるかもしれない恐怖が彼女を苦しめているのか…
悟さんも反省していた、リプカさんを起動させてからそんな話を聞かせてしまった事を。
俺はそんなリプカを救いたいと、ただそれだけを思って彼女のマスターになる事を決めたんだ。
「俺がしっかりしないと…リプカ大丈夫、俺がついてるから」
「お前を誰にも消させはしない…ちゃんと守るから!」
何度苦しそうなリプカに声をかけ続けただろう。
いつの間にか窓から光が射し込んできていた。
「あ……私は…」
何とか俺の祈りが通じたのか、リプカは閉じたままだった瞼がゆっくりと開かれた。
「よかった…リプカ…!」
俺がリプカが目を覚ました事に嬉しくなって、頭を撫でようと手を伸ばすが…
「なっ、何をする…私はどうして…」
リプカは俺の手から逃げるように走り出すと、机の端っこまで行って座り込む。
「俺、お前のマスターになったんだよ…それでお前のはリプカな…あとは…」
「そんな事は分かってる! どうして私を助けた?」
リプカは俺の方なんて一切見ないが、その声は悲しそうに震えている。
「そりゃあ、決まってんじゃん…」
「…なんだ?」
「お前が可愛いからだよ!」
もう寝てないのとリプカが目を覚ましたのが嬉しくて、こんな事を言ってしまってる俺。
「………。」
リプカは何も言わず、ただ背を向けて俯いている。
「ま、とにかくほんとよかった…お前がちゃんといてくれて」
「もしかしたら、もう消えちまったんじゃないかって少しだけ心配してたから…」
リプカの無事がわかって力を使い果たした俺は、バタリと布団に倒れ込む。
「今日の学校もさすがに遅刻かな、こりゃ…あ、リプカ…この礼はバトルロンドに参加するって事で返してくれたらいいから……くかー」
その後は自分が何を言ったか記憶にない…そのまま寝ちまったんだろうけど。
でも、リプカの声でこんな台詞が聞こえたような気がしたな…
「………わかった、ありがとう」
この日、学校を思い切り遅刻したのは言うまでもなく事実となった…
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