「入学式っつーもんは、だるいしめんどーだよな…」
「だからって、屋上で暇潰ししてどうする…この大馬鹿者が」
ここは学校の屋上。そして、今日から初めて通う事に学校。
俺のポケットにいる相棒のリプカは、いつものように親のように怒っている。
「いーじゃねっかよーこんな学校だと、みんな入学式なんてまともに出てないぜ?」
俺が屋上から見下ろせば、校庭で遊んでる者たちや集まって喋ってる者たちが多数見える。
「もっとまともな高校に入れなかったのか…赤哉」
「リプカなら分かってんだろ、俺の頭がどうしようもない事くらい」
俺が変な顔をして見せると、リプカは呆れたように首を横に振ってため息をついている。
「まぁ…ちゃんと登校した事だけは褒めてやるか…中学の最後の方は…」
「だーっ! それはもう言わないでくれよっ、これからはもうちっとだけ真面目にやるから!」
俺が焦ったように大声を張り上げると、リプカは勝ち誇ったかのようにくすくす笑っている。
「てゆーか、リプカ…お前も随分俺に甘くなったよな…」
俺がポケットの中にいたリプカを取り出し、座っている自分の膝の上に乗せるとリプカは急に焦り出した。
「ばっ、馬鹿者…お前があまりにも低レベルなやつだから、私がそれに合わせてやってるだけだ…」
頑張って抗議するリプカが何だか可愛い。
俺はリプカの頭を指でささっと撫でた。
「私の頭を撫でるなんて良い度胸をしてるな、赤哉?」
「い、いや、そういうつもりじゃねぇんだ…」
腕を組んで俺を睨むリプカに、俺は必死にぺこぺこと謝った。
《ガチャン》
「ねぇ、あんたも見た?」
「ええ…あれはさすがにやばいわよね」
「体育倉庫の裏に連れ去られた新入生…あたし達じゃなくてよかったわね」
「あんな威圧感のある男の先輩たちに囲まれたんじゃ、あの子はもう…」
急にドアが開く音がして入ってきたのは、俺と同じ新入生と思われる女子三人だ。
「おい、赤哉…」
その話しを聞いて何だかいてもたってもいられなくなった俺は、リプカが助けようと言う前に行動していた。
「おい、その女子はどこに連れてかれたんだ?」
俺が話しかけた瞬間に黙り込む女子たち。
俺は何だかものすごくイライラしてきて…
「お前ら、良心のかけらもないのかよ! 助けに行くのは俺なんだから、さっさと答えろ!」
俺がものすごい気迫で怒鳴ると、女子たちはビビりながらも小さな声で話し始めた。
「体育倉庫は、体育館の左に入った所にあるわ…」
「毎年、新入生の女の子はやばい先輩に目をつけられると…」
「あたし達も助けたかった…けど…」
俺はまだよく分からない体育倉庫の場所を聞くと、とりあえず体育館のある方へ走っていた。
「体育館では入学式が行われてるはず…そんな状況でよく…」
「ふざけてるよな、俺はそんなくだらねー連中が一番嫌いなんだ!」
ポケットにいる考え込むリプカの言葉を遮るように、俺は思った事を口にする。
ほんと許さねぇ…先輩だろうと、人数がいくらいようと、俺が全員ぶちのめしてやるぜ!
・
・
・
・
・
「一年生ってほんとうまそうだよなぁ…」
「馬鹿だな、お前…それをこれから頂くんじゃねぇか…」
「じゃあ、まずは俺様が頂くとするぜ…」
体育館からすぐ近くにある、今は使われていない体育倉庫に新入生の女子一人と在校生の男子生徒が三人ほどいる。
首元まである短い茶髪に、ピンクのメッシュが入った女子は全く抵抗する事もなく大人しくしている。
「・・・・・・・・」
女子は何も感情を出さないような表情を浮かべながら、ただ目の前にいる獣のような男たちを見つめていた。
短いスカートから覗く白い太股、ギリギリまで開けたシャツから覗く大きな胸は、男たちを興奮させるには十分だった。
横たわっている体操マットに体を預け、何を考えているか分からない彼女はゆっくりと瞼を閉じた。
《ガラガラガラガラっ…!》
重い扉を必死に開けた男子生徒は、一直線に恐ろしい行事が行われようとしている所へ突っ込んでいく。
「うぉりゃああぁっ!」
・
・
・
「はぁはぁ…大丈夫か…あんた…」
腕っぷしだけには自信があった俺も、今回ばかりは苦戦したが何とかあの先輩たちを倒して追い払う事には成功した。
乱れされた服を直そうともせず、ただ天井を見つめている女子に俺は制服の上着を投げた。
「ごめん…俺、遅かったよな…ごめんな、もっと早く来れなくて…」
彼女の反応を見る限り、俺は最悪な事態が起きてしまったのかとばかり思ってしまった。
悔しくて悔しくてたまらなくて、拳を強く握る俺。
「……むしろ、来てほしくありませんでした」
「…え?」
彼女が初めて出した言葉に俺はとても驚いた。
「まぁ、別に誰でもいいんです…私を壊してくれるなら誰でも…あなたでもいいですよ?」
体をゆっくり起こした彼女から、俺がかけた上着がはらりと落ちる。
そして、その事で乱された服から彼女の大きな胸と下着が思い切り出てしまう。
「男は女が欲しい…あなたもあの人たちと一緒でしょう?」
彼女は誘惑するかのように前で開くらしい下着に手をかけ、下着を脱ごうとした。
俺は慌てて背を向け、彼女に思った事をぶちまける。
「馬鹿野郎! もっと大事にしろよ、お前には幸せになる権利がある…自分の体をそんな粗末に扱うな!」
静かな体操倉庫の中で俺の大きな声がこだまする。
そして、俺はそのまま走って体育倉庫から出てきてしまった。
「く、くそう…」
俺は何だか分からないけど、目から涙が零れていた。
もし、妹の抹黄がそんな事を言うようになったら俺は妹でも殴って叱っただろう。
考えれば考えるだけ頭は混乱して、俺の心もめちゃくちゃになった。
《カサ…》
「おい、赤哉…大丈夫か?」
ここへ入る前に体育倉庫脇の草むらへ逃がしていた、リプカが心配そうに俺に声をかける。
「あいつ、あんなんで楽しいのかよ…」
心配そうなリプカをよそに、俺はさっきの女子の事で頭がいっぱいになっていた。
時雨、あの時のお前の顔…今でも忘れない。
あの時、ちゃんと対応してやれなくてごめんな。
これからはきっと・・・・
COMMENT