「さとる…武装のテストはこんな所でいい?」
シュクレとは違ってヒューマノイドになれる事隠しているぼくは、こうしてちょくちょく神姫に戻る事がある。
こうしている時の方が彼とは近いのかもしれないけど、ぼくは彼と同じような立場で愛してみたい愛されてみたいと思ってしまった。
神姫失格なのかも…きっとヒューマノイドとしても。
最初から人として生まれてこれればよかったけど仕方ない…
せっかくチャンスをくれた親切な人々がいたのだから、自分を信じて何とか頑張ってみようと思えた。
「わがまま…かな、ぼく…」
思っている事が言葉として出てしまって、ぼくは慌てて自分の口を塞いだ。
「ありがとう、ルセル…テストはこんな所でよさそうだよ」
彼にそう言われてぼくは重たかった武装を脱いで下ろした。
最近はヒューマノイドになることもあるから、こうして武装状態でいる事が体が重い気がしてならない。
「夏休みの間に完成させられたらいいんだけど…」
彼は自分のデスクにある卓上カレンダーをじっと見ている。
大学生になった彼は、休みの日や時間がある時にこうしてよく神姫絡みの仕事をしている。
それは趣味の範囲ではなくて、しっかりとこの会社で働いているという事になっている…まだバイトの身らしいけど。
「そういえばルセル…最近新しいメイドさんが来たみたいだけど知ってる?」
パソコンを操作しながら話す彼は、いつも見ているけどすごく好きな彼の姿だ。
やっぱり好きな人が好きな事をしている姿というのは、見ていて全然飽きないなって思う。
「えっと、ルセル…聞いてる?」
「あ、えーっと…ぼくと同じ白髪の人だよね?」
ヒューマノイドの自分の事とはいえ、自分の話しをされていると思うとすごくドキドキしてしまう。
「そう、あの娘すごく可愛いよね…ルセルには負けるけど」
「な、何でよ!」
「…え?」
彼は今の自分の事を褒めてくれたというのに、ヒューマノイドの自分が受け入れてもらえないみたいで思わず反論してしまった。
「だって、ぼくなんかよくないよ…小さいし神姫だし」
自分で言ってて、何だかものすごく悲しくなってきた。
「ルセルはすごく可愛いよ、僕の大切な家族…それだからってわけじゃないけどルセルは可愛い」
「ううーん…」
すごく複雑な気分。
彼のお父さんにお願いして、せっかく大人にしてもらってるのに。
「ま、まぁ…あの娘はさとるの好きな巨乳じゃないしね!」
ぼくは悔しくてぷいっとそっぽを向いた。
背後から彼の指の気配がする…
そして、彼の指は小さなぼくの頭を優しく撫でた。
「そんなに拗ねなくていいよ、僕はどんなルセルでも好きだから」
期待しちゃいけないと思うけど、彼のその言葉に色々と期待してしまう。
「どんなぼくでも…?」
「ルセルが人間だったとしても、ヒューマノイドだったとしても何でも…だって僕らは家族なんだから」
ぼくは自分の頭の上にある彼の指にギュッと抱きついてみる。
彼が自分の事をどう思っているかは痛いほど分かっているが、今はまだ…彼が夏休みのこの間だけはまだ諦めたくはない。
《ヴィーンヴィーン…》
バイブ設定になっている彼の携帯が着信を知らせている。
「やばい…ちまりちゃんかな…今日お店に遊びに行くって約束してたんだった」
自分の携帯を慌てて手に取った彼は、携帯の画面をタッチして何かを読んでいる。
着信は電話ではなくてメールだったのかな…
「さとる、早く準備して行かなくちゃ」
「そうだね、前回も約束すっぽかしちゃったから今回はちゃんと行かないと…」
彼は慌ててメールの返事をしているようだった。
もう少し彼と一緒にいたかったけど、神姫であるぼくがワガママを言うわけにいかない。
もう十分ワガママしてるじゃないかと言われればそれまでだね…
「ルセルも一緒に行く?」
「いいや、ぼくはもう少しこの武装のテストしとくよ」
「ありがとうルセル…じゃあ僕は行くよ」
白衣を投げ捨て駆け足で部屋を出ていく彼。
その時の表情がとても嬉しそうだったのが、自分には胸の痛い所だった。
「一緒に行きたいけど、行けるわけない…」
随分前からぼくはもう彼が出かける時についていく事をやめている。
神姫センターなど自分が必要な時は出るけど、彼が彼の用事で出ていく時はついていく事をやめた。
それは、あの娘と一緒にいる時の彼の笑顔を見たくないから。
「ぼく、気持ち悪いよね…神姫のくせにマスターのこと愛してしまうなんて…」
もうここまできたら笑うしかない。
きっと今のままで告白したなら、彼に気持ち悪がられてしまうだろう。
だからヒューマノイドになる事を選んだのだけど…
「どっちでも一緒かな…」
自分しかいない彼の仕事部屋。
こんな時は昔、妹のシュクレがいつも一緒にいてくれた。
「最低だ、ぼく…シュクレも傷付けて」
シュクレの気持ちに答えてあげれなかった。
シュクレはずっとずっとぼくの事を愛してくれていた。
シュクレの愛は、ぼくがシュクレを思う愛とは違っていた。
シュクレは彼がぼくを贔屓していた時、ただぼくの幸せだけを願ってくれていた。
「シュクレ、ごめん…駄目な姉でごめん…本当にごめん…」
今は隣にはいない妹にぼくはひたすら謝る。
シュクレは今、幸せだろうか…また苦しい思いをしていないだろうか…
シュクレの事を考えれば、ただただ心配事だけしか出てこない。
「またあの時みたいな姉妹に双子に戻れるかな…」
生まれた時からずっと一緒だった双子の妹と心が離れるだけで、こんなに不安になるとは思ってもいなかった。
もう難しいかもしれないけど、姉として失格な自分はシュクレとまた今までの姉妹に戻れる事を夢見ていた。
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