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なすへちま農園ブログ


武装神姫とかFAガールとかメガミデバイスとかドールとか
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「すみません、レイニーさん…」

いつものようにパソコンの画面を見ながら慣れたようにレイニーさんを呼ぶ彼。
彼に呼ばれて歩いていくレイニーさんの背中を僕はただぼーっと見ていた。

「悟さま…いかがなさいましたか?」

「ちょっと買い出しに行きたいんだ、急に必要なものが出来てしまって…」

「はい…」

「そこでなんだけど、レイニーさん…よかったら僕の買い出しに付き合ってもらえないかな?」

少し遠くに見える彼とレイニーさんは、よく知らない人から見ればただのメイドとご主人様だが、僕には母と息子のような…姉と弟のような…立派な家族に見えていた。

彼が生まれる前からいたレイニーさん…
一度、あの戦いでそれまでのレイニーさんが消えてしまった事があるが、今はそれを忘れてしまうくらい彼とレイニーさんには深い絆がある…。
ずっと羨ましいと思っていた…人間とヒューマノイドという壁を越えた二人の関係が…
レイニーさんと話す彼の目からは、レイニーさんへの絶対的な信用が窺える。
そしてレイニーさんも…彼を家族として愛しているという事がよく分かる。


「申し訳ありません、悟さま…私はまだやらなければならない事があるので、悟さまがよろしければ梨乃さんと買い出しに行かれては…?」

「そうかぁ、レイニーさんも忙しいよね…えっと、梨乃くん…?」


急に自分の名前を呼ばれて心臓が止まりそうなくらい驚いてしまう。
まさか、こんなとこでぼくの名前が出てくるとは思っていなかった…


「は、はい…悟さま…いかがなさいましたか?」

相変わらず可愛らしくない返事。
仕方がない…ぼくは今、彼のメイドなのだから。


「僕とレイニーさんの話しを聞いてたら分かると思うけど…君さえよければ、僕と買い出しに行ってほしいんだけど…」

「ふふ…よかったですねぇ、梨乃さん…まだ来たばかりの梨乃さんはこの辺りをもっと色々見てみたいと言ってましたものね?」

そう言いながら、レイニーさんは彼に分からないように僕にウィンクする。
これはレイニーさんがぼくのために気を利かせてくれたのか…

「はい、行きます! ありがとうございます!」

チャンスをくれたレイニーさんと誘ってくれた彼に精一杯感謝を示したお辞儀をする。


「それじゃあ、梨乃くん…20分後に玄関で待ち合わせという事で…」

「は、はい…!」

大好きな彼と出かけられる事が嬉しくてたまらなくて、ぼくは涙が出そうなほど喜んだ。

 

 

「よく似合ってますよ、梨乃さん…それでは、いってらっしゃい」

レイニーさんに背中を押され、緊張しながらも彼の待つ玄関に向かうぼく。
メイド服のままではあれだからと、レイニーさんが自分のワンピースを貸してくれた。
シンプルなデザインのものだが、とても上品で可愛らしいワンピースだ。


「お…来たね、梨乃くん…待っていたよ」

先に玄関に来ていた彼はいつもの白衣ではなく、洒落たジャケットを着ていてとても格好良い。

「ご、ごめんなさい…悟さま、お待たせしてしまって…」

「いいんだよ、僕が少し早く来過ぎた…それでは梨乃くん、行こうか…」

彼は優しく微笑むと高そうな革靴を履いて、掃除が大変な大きな玄関から外に出ていく。

「あ、はい…う…難しい…」

神姫の頃はあまり履く事のないミュールに、なんだか苦戦してしまう。
履くのは簡単だけど、少しヒールが高いから歩きにくい…

「大丈夫かい、梨乃くん?」

ぼくが玄関であたふたしていると、彼がぼくの手を取ってくれた。

「あ、ありがとうございます…わ、私…あまりこういう格好をする事がなくて…」

温かい彼の手のぬくもりが心地良くて、いつまでもこうしていたくなってしまう。

「よく似合ってるよ、梨乃くん…僕はいつものメイド服の梨乃くんも好きだけど」

彼の【好き】という言葉に過敏になってしまう…
彼はそういう意味で言ったわけではないのは分かっているけど、今のぼくには十分過ぎるくらい嬉しい言葉だった。

「それでは、参りましょうか…お姫様?」

「は、はい…!」

 

 







「今日はありがとう、梨乃くん…すごく助かったよ」

彼と過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
彼の買い出しは友達の女の子(?)への誕生日プレゼントだった。
あまりそういう買い物をした事がない彼は、女の子が好きそうな物が売っているお店に一人では入りにくかったそうだ。
今日、彼が購入したのは、アクセサリーのように可愛い携帯ストラップだった。


「悟さまからこれを誕生日プレゼントに貰う女の子は幸せ者ですね…」

なんだか複雑な気分のぼくは、ついつい可愛くない事を言ってしまう。

「もうじき、彼女(?)の誕生日だからね…誕生日会をみんなでしてあげようって決めてるんだけど、どんなプレゼントをしたらいいか悩んでて…」

彼は照れたようなはにかんだような表情で話す。
そんなにその女の子(?)の事が好きなのだろうか…?

「彼女はもう立派な女の子だからね…昔からか…ははは」

彼の話し方で誰にプレゼントするものなのかはっきり分かってしまった。
確かにあの方にはちゃんとプレゼントしておかないと、後で怖い事になりそうな気がする…


「よかったぁ…このプレゼントが悟さまの好きな人にあげるものじゃなくて」

自分がヒューマノイドだという事も忘れて、いつもの調子で彼に話してしまうぼく。

「まぁ、彼女は彼女で友人として好きだからね…ちまりちゃんの親友だしね…」

彼が【ちまりちゃん】という名前を出した時の表情がとても嬉しそうだった。
忘れちゃダメだ…彼にはその子がいるというのに…
ぼくは一瞬、泣きそうになるのを堪えてまた笑顔で話す。

「誕生日会、素敵なものになるといいですね…」

 

悲しいくらい綺麗なオレンジの空と、彼の優しい笑顔…ぼくは一生忘れない。
今日の出来事はぼくにとって、また一つ宝物になった。

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プロフィール
ちの
神姫&ドールのアイペや布服の製作だけでなく、髪パーツの自作までするマルチな淑女。
2012/9/30に亡くなりました。記事にまとめてあります。


ちっぽ
Twitter:@po_chippo
Threads:@nas_hechima
神姫の武装パーツや髪パーツの制作や、ブログの更新もする雄犬。
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