今回のバトルステージは、公園のようなところだった。
地面には芝生が生え、木が何本か生えている。
「相手は飛行型…後は近距離戦に付き合ってくれるか、だね」
ルセルが辺りを見回しながら話し始める。
ルセルの体は、六角形のアーマーで守られている。
右手には銃のような持ち方の剣を持ち、右肩のアーマーはアームのようになっており先端にクローを持つ。
そして、足にはスケートを履いている。
『ルセル、スケートを使うときは足元に気をつけてね。芝生で石が見えないから』
「うん、わかったよ」
ルセルが左肩と左ふともものブースターで移動を始める。
こんな地面でもルセルはスケートで氷の上にいるかのように滑っていく。
《ヒュウンッ》
突然上空を通る影が映る。
…ベーチェルさんだ。
「あーら、油断大敵ですわよ!?」
ベーチェルさんは右手に持った大型ガンブレードで切り掛かってくる。
ルセルはそれにたいして自らもブレードで応戦する。
《ガキィィィンッ》
「くっ…やるね!」
地上にいるルセルさんに対して、空中から攻めるベーチェルさん。
かかる重量の差で、ルセルが力負けしている。
『ベーチェル、ガンガンいくデース』
「わかりましたわ!」
ベーチェルさんはラプティアスらしい高機動力を生かした接近戦が得意なようだ。
…だが、接近戦なら…!
「このっ!」
「!?」
ルセルが飛んできたベーチェルの足を、右肩から伸びるクローで捕まえる。
「離しなさい!」
ルセルはそのままベーチェルさんを引きずり落とすと、地面に向かって投げ飛ばす。
「もう、飛ばせないよ!」
投げ飛ばした先へとスケートで滑っていくルセルが、途中でスピンをしながら飛び掛かる。
《キィィィンッ》
ルセルのブレードがベーチェルさんのブレードを弾く。
フィギュアスケートのスピンを参考にした、回転力を生かした斬撃が、ルセルの一番の持ち味だ。
「まだまだいっくよー!」
《キィンッ ドゴォッ》
「キャアアアアアッ!!??」
そのままの勢いで足のスケートで蹴りつけ、最後に右肩のクローで殴り飛ばした。
近距離での豊富なコンビネーションも、昔のルセルにはなかったものだ。
「やりますわね…ですが、こちらにも意地がありますのよ!」
ベーチェルさんはなんとか姿勢を立て直すと、再び空へと飛び上がる。
『まずい…!』
「まだ間に合うよ!」
ルセルは左肩と左足のブースターを全開にして、ベーチェルさんへと一直線に飛び掛かる。
「このぉぉぉおっ!」
「!?」
ルセルを中心にキィンとした共鳴音が鳴り響くと、髪が靡きルセルのいつもなら隠れている左目が現れる。
白魔型だけが持つ真の力…リミッター解除だ。
「たぁっ」
ルセルがジャンプすると、装備の重さを感じさせない軽さで飛び上がる。
ルセルとシュクレのリミッター解除は若干特殊で、持てる装備の重さを決める重装性能が大幅にアップする。
昔はタッグバトルで使って二人の装備を一人に合体させるという荒業を使っていたが、一人で使っても効果が高い。
『ベーチェル、蹴散らすデスヨ!』
「そうは言いましても、この速さでは…!」
ルセルはブースターを全開にしながらベーチェルさんに突撃する。
ベーチェルさんは逃げようとしているが、無駄な動きなく突撃してくるルセルを振り切れない。
「追い付いたよっ!」
「!?」
《ガシィンッ》
ルセルはクローでベーチェルさんを掴むと、地面に向かって投げつける。
「さとるの…ためならっ!」
ルセルが剣を振りかざすと、ベーチェルさんはちょうど機能停止していた。
画面に勝利を告げるメッセージが表示される。
「お姉さま…マスターのためなら、そこまでできるのですね…」
シュクレが消えていく画面を見ながら呟いている。
僕の位置からでは、その表情はわからなかった。
「…すごいデスネ、こんなに本気の相手は初めてデスヨ」
ミリィさんはびっくりした表情でこちらを見つめている。
本気の相手は、初めて…?
「…まぁ、当然と言えば当然ですわ、あの小さな国の中で、プリンセスに本気を出そうなんて輩はいませんもの」
「チャンピオンとか言ったのに、カッコ悪いデース」
ミリィさんは恥ずかしそうに顔を隠している。
「でも…楽しかったデスヨ!」
ミリィさんの表情が、すぐに笑顔に戻る。
本当に表情がコロコロと変わる子だ。
「さとるさんさえよければですケド…もうちょっとバトルに付き合って欲しいデース」
「ええ、このまま負けっぱなしなんて悔し過ぎますわっ!!」
ベーチェルさんが本当に悔しそうな顔で叫んでいる。
これは当分逃がして貰えなさそうだ…
「シュクレ、次はお願いできる?」
「…」
シュクレは一瞬反応しないでいたが、ハッとしたような顔でこちらを見る。
「は、はい、頑張ります!」
「…大丈夫?様子がおかしいけど…」
「だ、大丈夫ですから! さあ、私はいつでも大丈夫ですよ、マスター」
…変なシュクレ…どうしたんだろう?
「さあ、勝負ですわっ!」
「お願いするデース」
ベーチェルさんとミリィさんに連れられて、またバトルロンドの機械へと連れていかれる。
…今日は製作途中の”アレ”のテストをしたかったけれど、仕方がないか…
ミリィさんの笑顔には勝てる気がしなかった。
私がバトルロンドの機械にセットされると、お姉さまとマスターが楽しそうに話しているのが見える。
…お姉さま、マスター、まさに両想い。
私も大切にされているのはわかる、でも…私はお姉さまもマスターも愛していて、一度くらい一番になってみたいんです。
私はワガママですか…?
そんなことを考えていると、精神が機械の中へと吸い込まれていく。
今日は勝てそうにない、こういうときのライフルはびっくりするくらい当たらないから…
私の気持ちと同じように。
僕は神姫センターの片隅で立ち尽くしていた。
な、なんなんだあの可愛い子は。
歳はきっと同じくらいなんだろう…でも、未来での同級生はあんなに可愛くないぞ…!?
「…マスター、なにかあったの? 顔が真っ赤よ?」
「…アイニ、ネム、フェローネ、僕はあの子を未来に連れ帰る」
「連れ帰る…?」
あんなに可愛い子にはもう二度と出会えない。
「僕はあの子を必ずお嫁さんにする…いくぞ、作戦会議だ!」
「…わかった」
僕が歩いていくのに、三体の神姫が続いていく。
…ミニーソンへのリベンジに来ただけだったが、これはそれだけでは済まないぞ…!
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