「お兄様…赤哉さんをお連れしました」
「赤哉くん、具合の方はどうだい?」
オーベルジーヌ社につくなり俺は、ある部屋に連れてこられた。
そこにはオーベルジーヌ社社長、その息子の悟さん、その他の社員が数人ととても物々しい雰囲気だった。
「俺のことはどうでもいいんです、時雨は…時雨はどうなんですか?」
一週間眠ったままだった自分の体は、久々に動いた事により多少の目眩はしたがそんな事はどうでもいい。
とにかく俺の頭は時雨の事でいっぱいだった。
「赤哉、みっともないぞ…男ならこんな時ほど冷静でいるものだ」
「リプカ…どうして…」
俺の足元にいるのは、相棒のリプカ。
彼女はこんなに小さな体なのに俺より大人でしっかりしている。
リプカと久々に再会出来た事により、少しだけ焦っていた心が落ち着いた。
「さぁ、社長話してやってくれ…こいつに真実を」
「分かった…赤哉くん、君なら全て受け入れてくれると信じてる…」
リプカが社長を見遣ると、社長は一呼吸おいてから話し始めた…。
「まず結論から言おう…時雨くんは生きている、しかし今だ眠ったままだ…」
生きていてくれたならよかったと少しホッとしたものの、時雨がまだ眠ったままだというならまだ安心はできない。
「それはどういう…」
「彼女に会ってもらえば分かる…」
そう落ち着いた声で話す社長は、カーテンで遮られていた場所へ俺を案内する。
時雨に会えるんだ…俺の胸がそう喜んだ瞬間、彼女に対面してからの衝撃により一気にかき消された。
「しぐ…れ…時雨?」
時雨は裸のまま無機質な機械のベッドに眠っている。
そしてその全身には無数の配線やら管やらが…
彼女の手元に白髪の神姫が座っているのが見える。
「これが彼女の正体なんだよ、赤哉くん…」
「時雨が……人間…じゃない?」
その光景を見ればそれは明らかで。
周りには数人の社員たち…彼らは慌ただしく時雨の体をいじっている。
それは人間に施される治療ではないと一目で分かる。
「どんなに修理をしても目を覚ましてくれないのだよ…体自体の破損箇所はもうないのだが、記憶装置もやられていてもしかしたら目が覚めても記憶が…」
「嘘だ…嘘だっ…時雨がロボットだなんて…」
俺は体の力が一気に抜けて床にへたりこむ。
社長の話なんてそれ以上、頭に入ってこなかった。
「赤哉さん、彼女はロボットではありません…ヒューマノイドです…そしてヒューマノイドには人間や神姫と同じで心がある…」
そう言ってやってきたのはピンク髪のレイニーさんだった。
「ダメだ…わかんない…俺…」
俺の頭はかなり混乱していた。
気付いたらその部屋を出て、廊下に出てきてしまっていた。
「赤哉さん…ぼくの話…聞いてくれない?」
しばらく呆然と廊下の椅子で頭を抱えていた後、白髪の子供のような神姫が近付いてきた。
「・・・・・・。」
「ごめんね、シュクレが…いや時雨が嘘をついていて…」
いきなり話しかけられてどう返事したらいいか分からなかった。
そうしたら白髪の神姫…いや、悟さんの神姫のルセルさんが話しをし始めた。
「君なら知ってると思うけど、シュクレ…いや時雨はぼくの妹なんだ」
「S.Projectという所で作られた白魔型神姫…ぼくと妹はそこの局長に選ばれて悟のとこへやってきた…」
「妹はすごく純粋で子供っぽい女の子だった、こんなぼくを姉と慕ってくれていつもさとると三人一緒だった…」
「ある時、妹が急に人間になりたいって言い出して…それを叶えてくれたのが社長…なんで急に人間になりたいのかって聞いたら…」
「妹は神姫のままでいたら自分はずっと幸せになれないと…妹はこんなぼくを真剣に愛してくれていたんだ、でもぼくは彼女の気持ちに応えられなくて…」
「ヒューマノイドになったばかりの妹はかなりやさぐれてた、君に出会うまでは…」
ルセルさんは一気にいろんな事を俺に話した。
今の俺の頭には全てを理解出来なかったけど、時雨がシュクレという悟さんの神姫でルセルさんの妹だという事は分かった。
「時雨は…俺なんかといて幸せだったでしょうか…俺といたからあんな事故に…」
「ちがう! ちがうよ、赤哉さん…シュクレはあの日、とても楽しそうに出かけていった…途中で携帯からメールもくれたよ…いま最高に幸せだって」
涙が溢れてきた。
涙がとめどなく溢れてきてずっと止まらなかった。
「妹には、シュクレには…君しかいないんだ…シュクレは君を本気で心から愛してる…だから…」
そう必死に話しているルセルさんも泣いていた。
「赤哉…もう迷う事などないだろう…彼女はお前を待っている」
そこへリプカがやってきて、俺をとても真剣な顔で見ている。
「そう…だよな…人間とか神姫とかヒューマノイドとか関係ない…俺は時雨を…時雨自身を愛してるんだから…」
そう思ったらもう、時雨の顔を見たくて見たくてたまらなくなった。
俺は急いでさっきの時雨がいた部屋に走る。
「戻ってきてくれたんだね、赤哉くん…」
社長の安心したような声が聞こえる。
俺は時雨の前にきた途端、眠ったままの彼女を強く抱きしめた。
「ほら父さん、今は二人だけにしてあげましょう…」
悟さんが声をかけてくれた事によって、社長やレイニーさん、社員たちがぞろぞろと部屋から出ていった。
「時雨…無事でよかった…お前がどんなお前でも俺はお前を世界一愛する…」
俺は眠ったままの時雨の唇に優しくキスをする。
「目が覚めて、たとえ俺を覚えてなかったとしても…俺はお前が俺を必要としてくれてる限り…」
そばにいる…その言葉は口づけに込め、彼女を強く強く抱きしめた…。
まさか、あの時クリスマスのデートで見た映画と同じになるなんて思ってもいなかった。
目を覚ましてくれたらそれででいい、あの時の俺はただそれだけを思っていたから……。
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