「…ずいぶん散らかっているな、この部屋は」
僕がPCのディスプレイの脇からドアのほうを見ると、開発室には不釣り合いな長い金髪がなびくのが見えた。
その人物はそのまま僕のところに歩いてくると、僕の隣に立ちPCを覗きこんだ。
「…新型のフェローネとエウリュノメⅡの交戦データか」
「うん、あの時はなんとか勝ててよかったけど…」
彼女は勝手にマウスを掴むと、僕がデスクトップに置いているファイルを開いていく。
マウスを操作するためにすぐ近くまで寄ったことにより、その長い金髪が僕の頬を撫でる。
…彼女と初めて出会ってから4年、最近一気に背も高くなった。
「…このデータは?」
それは今構想中の武装神姫のデータだった。
お父さんが作った魔王型CSC搭載神姫に匹敵し、エウリュノメと違い単体で動作する武装神姫…
「まだ構想段階だけど、僕なりに今できる最高の神姫を作りたいんだ」
「…ふむ、これはなかなか面白い設計思想だな…」
彼女はどんどんデータを読み進めていく。
彼女の傍若無人っぷりは、日に日に度合いを増していく。
…まぁ、本物の“お姫様”なのだから、それもいいのかもしれない。
「このデータはフェローネから入手したものか…ちっぽさん、ちのさん経由のモナルダやチベッサのデータもあるのか」
彼女のいう“ちっぽさん”、“ちのさん”というのは、オーベルジーヌ社の社員の人の愛称である。
オーベルジーヌ社でこの数年を過ごした彼女は昔からの天才っぷりを発揮し、神姫の設計にもかなり詳しくなったらしい。
このままだと妹に抜かれた間抜けな兄になってしまう…というのも、新しい神姫を考え始めた理由の一つだったりする。
「しかしこの構想データ、なぜファイル名が“angel”なのだ?」
「…それは…」
それは、エウリュノメ…女神を守る、天使たちを作りたいという僕の願いがかかっているからである。
その“女神”は、エウリュノメだけでなく僕の愛する人間も含まれているが…いや、これは秘密だ、恥ずかしいし。
「未来からのオーバーテクノロジーに、魔王型のイリーガルなシステムの融合…違法改造ではないとはいえ、これでは天使というよりは“堕天使”だと思うぞ?」
…彼女の言い方に少しムッとしたが、よくよく考えてみたらそれこそが適切な表現かもしれない。
なにより僕に、“天使”は不釣り合いだ。
僕はファイル名を書き換えると、ファイルの最初にこう付け足した。
“堕天使型開発プロジェクト”…と。
「…そうだ本題を忘れていた。レイニーさんがこれからおやつにしたいそうだ」
…そういえば、昼食のときにそんなことを言っていた気がする。すっかり忘れていたが、すでに3時を回っていた。
「レイニーさんのフィナンシェ楽しみだな、悟お兄ちゃん?」
彼女が笑顔でこちらを向く。
この笑顔は昔から変わらない、彼女らしい純粋な笑顔だ。
「わかったよ、ミリア。レイニーさんは怒らせると怖いからな…」
「その通りだ。行くぞ、お兄ちゃん」
僕はPCを閉じると、ミリアと共にドアへと歩き始めた。
立ち上がって見れば、やっぱり彼女は小さかった。
…当たり前だ、いくらなんでも“妹”より小さい兄なんて嫌すぎる。
…出会ったときはもっと小さかったのにな、と昔の彼女を懐かしく思った。
おわり
コメント
魔王型に続く新たな計画・・・ですとっ。
これはなんだかワクワクしてきますなー(*´∀`)=3
そしてお二人の掛け合いも良いですね・・・おにいちゃんガンバレッ!w
一応当分これ関係の話が続く予定です。
魔王型の世界観を広げるのも続ける予定ですが(・・;)
ある意味悪魔(魔王)も元をただせば天使な訳ですが
件の“堕天使”さんはその双方の力を併せ持つといったところでしょうか
なにかもう神姫という枠組みすら超えた存在となりそうですね…!
その辺りは、これからの話でちょっとずつ出していけたらなと思っています。
我ながらこういうのが好きすぎるなとは思いますが(^^;;;