研究所にちゃんと来るのは初めてだ。
研究室の前のドアで緊張した顔で待っていると、メイドがドアを開け現れた。
「ルセルさん、シュクレさん、初めまして。私はメイド・ヒューマノイドのレイニーと申します」
メイドのレイニーさんが深々と頭を下げる。
「は、初めまして…」
「はい、宜しくお願いします」
慌てるルセルと丁寧に返すシュクレ。
こういったことでも2人は対照的だ。
「お兄様…いえ、お父様は研究の手が離せないそうなので、夕食はご一緒できないそうです」
…それはいつもの事だ。
「でも、今日は私がお世話して差し上げますからね!」
レイニーさんが嬉しそうに笑っている。
この人は、お父さんが小学生の頃に夏休みの宿題として作ったヒューマノイドだ。
その頃からお父さんは機械にばかり関わっていたのだろうか…
「お、珍しい顔が来てるっすよー!」
「ほ、ほんとうです…」
「わぁー、ミニーソンなのですー!」
白い髪にカチューシャをした神姫と、前髪で顔が見えない神姫と、緑の髪で背中に翼がある神姫が顔を出した。
昔一度レイニーさんに紹介されたことがある。
希歌さんとフェリアさんとリーシャさんだ。
「…さとる、この子達、誰?」
肩の上にいるルセルが、僕の首に隠れる。
ルセルやシュクレからしたら、初めてのことばかりなんだから、ちょっとくらい怖がっても当然か…
「希歌さん、リーシャさん、フェリアさんは、このオーベルジーヌ社でテストなどをしてくださっている神姫たちなんですよ」
レイニーさんがルセルとシュクレに説明している。
「ののかっす、よろしくっすよー」
「リーシャなのです、よろしくなのです!」
「ふぇ、フェリアです。よろしくお願いします」
神姫たちが次々と自己紹介していく。
「…ルセルだよ、よろしく」
「私、シュクレです。よろしくお願いします」
ルセルとシュクレも挨拶を返す。
2人を他のみんながいる机の上においてあげると、3人がわらわらと集まってくる。
「悟さま、お食事はこちらに用意してあります」
その机には、僕の夕食も用意されていた。
夕食を食べるために、僕は机についた。
「ふふふ…これはまたナイスバディさんがきたっすねー」
希歌さんがシュクレに迫っている。
…神姫にナイスバディもなにもあるんだろうか…?
「素体状態ってのもそそられるっすねー、ちょーっと触ってもいいっすか?」
「…ダメです、私の体はお姉さまのためにあるんですから…!」
シュクレがルセルの後ろに逃げ込む。
「私の体なんかより、お姉さまの体のほうが面白いですよ?」
「な、なんだよ、やめろよー!」
シュクレがルセルを後ろから抱きしめると、ルセルは必死に抵抗している。
「むふふ、幼女体型っていうのはそれはそれで…」
「や、やめろー!?」
前からは希歌がのしかかり、動きを封じている。
…この子達は神姫なのに何をやっているんだ…
「あ、あの、ルセルさん困っているようですから…」
ルセルよりもさらに困っているような気がするフェリアさんが止めに入る。
「…じゃあ、フェリアちゃんがののかの欲望を満たしてくれるっすか?」
「…ふぇ?」
希歌さんはターゲットをフェリアさんに移したらしく、ルセルから離れる。
その隙にルセルはシュクレから逃げ出す。
「ちょっと、待ってくださいよ、お姉さまー」
「しゅ、シュクレってそんなキャラだったのー!?」
ルセルが必死にシュクレから逃げ回っている。
「鬼ごっこなのですか?リーシャも混ざるのですよ!」
リーシャさんも混ざり、追いかけっこは混沌とし始めている。
…どうやらみんな仲良くなれたようだ。
「…悟さま、ずいぶん楽しそうですね」
「…え?」
レイニーさんの言葉で、ふと我に帰る。
どうやら神姫たちに見入っていたらしい。
「ふふ…それでは夕食の途中ですが、お二人の装備の説明をさせて頂きますね」
レイニーさんは何も見ないで話し始める。
「ルセルさんはS.Project製の白魔量産型No.19、基本装備はVer.Rと呼ばれるタイプです。
右半身の防御力と、スラスターでの突撃力に優れています。
シュクレさんは白魔量産型No.20、基本装備はVer.Lと呼ばれるタイプです。
左半身の防御力は白魔型でも随一で、射撃時に安定性にも優れます」
「…白魔量産型って聞いたことないね」
最初から分からなかった疑問をぶつけてみる。
「白魔量産型は、S.Projectが製作した武装神姫です。
まだ市販はされておらず、一部の協力者に対してモニターを行ってもらっている状態です。
最大の特徴はKaltSchild(カルトシルト)という形状記憶素材が使われていることです。
細かい説明は省きますが、他の神姫にない鉄壁の防御力が特徴となります」
だから最初姫子さんとアウラさんの装備を使ったときに何もできなかったのか…
「そしてこちらがオーベルジーヌ社が用意した2人用の専用装備です」
レイニーさんが武器のようなものを取り出した。
「こちらがルセルさん用のブランノワール・アン。ロッドと誘導式爆弾を兼ねた装備です。
そのまま殴ることも、先端の爆弾をロッドで誘導して敵の近くで爆発させたり出来ます」
レイニーさんは次の武器を手に持つ。
「こちらもルセルさん用のブランノワール・ドゥ。スケート兼トンファーです。略すとスケートンファーですね」
レイニーさんがクスクスと笑っている。
この人が本当にヒューマノイドなのか、いつも疑問に思う。
「スラスターと合わせての高機動力と、トンファーとしての近距離戦能力が期待できます。
ブランノワール・アンと合わせて、巨大な斧としても利用可能です」
2つの武器を組み合わせて説明してくれる。
説明書もなしで全て覚えているあたり、レイニーさんの数少ないヒューマノイドらしいところかもしれない。
「そしてこちらがシュクレさん用のブランノワール・トロワ。ライフル兼剣という装備です。
長距離戦と近距離戦のどちらにも対応できますが、どちらかといえばライフルとしての使用がメインです」
ルセルさんが近距離戦で、シュクレが遠距離戦なのか…
今までなら興味がなかったはずの話を、僕は知らない内に聞き入っていた。
「こちらもシュクレさん用のジュレールティーア、ランチャー兼スキーです。
スキーとして機動力を上げたり、ランチャーとして火力を増強したりできます。
…双子だからでしょうか、用途が2種類ある武器ばかりですね」
「…これだけあれば、2人ともちゃんと戦えるかな?」
僕は思わず聞き返していた。
「はい、試作品ではありますが性能は一級品です。後は使いこなす神姫とマスター次第ですね」
「ふーん…」
「ぜえ…はあ…」
ふと神姫たちのほうを見ると、ルセルが苦しそうに息をしていた。
「これくらいでバテてしまうなんて、お姉さまもまだまだですね」
シュクレが残念そうに呟いている。
一体何があったのだろう…
「それでは、今からこの装備のテストをして頂きます」
「…え?」
…なるほど、研究所に連れてこられたのはこのためだったのか…
「相手はののかとリーシャがするっすよ。さぁ準備するっすよ!」
希歌さんとリーシャさんが戦闘シミュレータ用と思われるディスプレイに設置されている機械に向かっていく。
「…ルセル、シュクレ、いけそう?」
「はい、私は大丈夫です」
「うん、バトルだったら、ぼくがんばっちゃうからね!」
ルセルもどうやら復活したらしい。
2人を手に取ると、レイニーさんに手伝ってもらいながら装備を装着していく。
「よーし、今度は負けないからねー」
ルセルは腕をぶんぶん振り回してやる気満々だ。
シュクレもどうやら準備ができたらしい。
――BattleSimulation Ready...Go!
レイニーさんとフェリアさんが見守る中、戦いは始まった。
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