ちまりちゃんは、電話から数分後には既に僕の家の前に来ていた。
「…デートって、神姫センターであってたかな?」
勘違いだったら困るので、一応確認してみる。
いや、本当にデートの可能性は、僕に限って万に一つもないと思うのだが…
「うん、すっかり忘れてた事があったんだよー」
ちまりちゃんが元気に挨拶すると、トレードマークのツインテールが揺れた。
姫子さんとアウラさんもバッグのポケットから顔を出している。
「あんた、せっかく神姫のマスターになったんだから、ちまりの夢を叶えてあげてよね?」
ちまりちゃんの夢…?
「ちまりちゃんは、昔からミニーソンくんと神姫でバトルしてみたいって言ってたんだー」
そうだったのか、それは知らなかった…
僕が神姫嫌いなのを知っているちまりちゃんのことだから、気を使っていてくれたのかもしれない。
天然に見える幼馴染に、僕は心の中でありがとうを言った。
「姫子さんとアウラさんと勝負ですか…それは緊張しますね」
シュクレが一瞬緊張した顔になったが、すぐ顔が綻ぶ。
「まぁ、私はお姉さまと一緒に戦える時点でうれしいですけど…」
「…さとる、こいつをどうにかしてくれ…」
ルセルが困り果てているのを見て、僕とちまりちゃんは一緒に笑った。
「おー、やっぱりここは賑やかでいいね」
ルセルが嬉しそうな声をあげる。
神姫センターに来るのも、だんだん嫌じゃなくなってきた。
「バトルロンド空いてるみたいだし、早速始めようよ!」
ちまりちゃんは本当に嬉しそうだ。
あの夢は、結構ちまりちゃんにとっては大きなものだったらしい。
「さとる、早くぼくたちをセットしてよね!」
「はい、早く私をお姉さまにセットしてください!」
ルセルはもはやつっこむ気力もないのか、ぐったりとしている。
僕は苦笑しながら2人を機械にセットする。
「さぁー、勝負だよ、ミニーソン!」
機械の向こうからちまりちゃんの声が聞こえた。
…ちまりちゃんの前じゃ、情けない所は見せられないな…
――BattleRondo Ready...Go!
戦いは、始まってから5分ほど経っていた。
長距離からの狙撃&砲撃を行ってくる姫子さんとアウラさんに対して、ルセルとシュクレは防戦一方になっている。
マップが山間部なので隠れられる場所が豊富なのと、白魔量産型の防御力があるので耐えてはいるが、このままでは判定負けだ。
「さとる、どうにかしてくれよー!」
ルセルはスケートとスラスターを活用して敵の攻撃を避けながら叫んでいる。
相手は2人とも飛行する事ができるため、ルセルは攻撃のチャンスがほとんどない。
「さすが手馴れていますね、狙撃が当たりません…」
シュクレもてこずっている。
これはどうしようもないのか…?
いや…まだ打てる手はある。
まずはルセルに指示を出さないと…
「ルセル、シュクレのいるところまで一度戻って、シュクレからスキーを借りるんだ!」
「…分かった、戻る前にやられたらごめんね!」
ルセルがスラスターの方向を変える。
「シュクレはスキーを外して待っていて、ライフルでルセルの援護を!」
「分かりました!」
シュクレも手早く準備する。
ルセルはすぐに戻ってきた。
「で、ぼくはどうしたらいいわけ?」
スキーを装備したルセルが僕に問いかけてくる。
「相手は飛べるけど、接近戦は苦手なはずだ。だからルセルが接近さえ出来れば勝てると思う」
「でも、どうやって…?」
「あの坂道と、途中の段差を使うんだ」
理解できていない2人は、お互いに顔を見合わせた。
「そこから全速力でスキーで滑って、あそこの段差からジャンプするんだ。スキーのジャンプみたいに。
ルセルはそのまま飛んで敵の翼を破壊して、落下してきたところをシュクレが狙撃する」
「そんなにうまくいきますか…?」
シュクレはかなり心配そうだ。
たしかに突飛な作戦だ。
「…でもそれしかなさそうだね、ぼくはさとるを信じるよ!」
ルセルが決意を決めた顔をしている。ありがとう、ルセル。
…なんだか、最近は人生の中で一番ありがとうを感じている気がする。
「…分かりました。私も全力でお姉さまをフォローします。お姉さまは思いっきり飛んでください!」
「よぉーし、いっくよー!」
ルセルはスキーと装備のスラスターを全開にする。
一気にスピードをあげたルセルは、段差のところで飛び上がった。
「な、なによあれは!?」
「スキーのジャンプー!?」
姫子さんとアウラさんは完全に不意をつかれている。
「ルセル、頑張れー!」
「やぁぁぁぁあっ!」
≪ザシュッ≫
ルセルは手に持った斧を横に構えると、アウラの翼を斬りつけた。
「キャー!?」
「アウラ!?」
アウラはそのまま落下していく。
ルセルはスキーを外し身軽になると、スラスターの方向を変え姫子さんに強引に接近した。
「私はアウラみたいにはいかないわよ!」
姫子さんはナイフを取り出すと構える。
それを見たルセルは斧を分離し、トンファーに持ち変える。
≪ザンッ≫
ルセルはナイフをギリギリでかわすと、翼をトンファーで叩く。
翼を破壊された姫子さんは、アウラさんと同じように落下していく。
…そこには、シュクレによる狙撃が待っていた。
――You Win!
「ありがとうミニーソンくん、やっぱりミニーソンくんは強かったね!」
ちまりちゃんが嬉しそうに僕の手を握っている。
「まさか飛んでくるなんて思わないわよ…あんた、やっぱり頭だけはいいのね」
「すごかったー!」
感心しながら皮肉を言う姫子さんと、すっかり感心しているアウラさん。
皮肉には聞こえるが、姫子さんなりに褒めてくれているのだと思う。
「いえ、全然偶然ですよ。次は同じ手は通用しないでしょうから…」
「うん、次の戦いまでにはぼくたちもっと強くなるね!」
どうやら戦いを通じて神姫たちの間にも友情のようなものが生まれたらしい。
あんな小さな体なのに、人間と何も変わらないように見える。
…おかしいな、僕が神姫に興味を持つなんて…
「次はちまりが勝つから、覚悟しててよねー?」
負けても元気なちまりちゃんを見ながら、僕はその不思議な感情に包まれていた。
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