「結構めげずにやるもんだな…」
コツコツ…と小さな音を立てて僕の所へ歩いてきたのは、
オーベルジーヌ社・社長兼研究員である僕の父親だ。
二年前に比べれば、僕に対する対応もだいぶ父親らしくなった。
「あなたが僕を誘ったんじゃないですか…」
それでもまだ少しイヤミを吐く父親に、僕も同じようにイヤミったらしく返してみた。
父の方を見てみれば、かなり嬉しそうに微笑んでいる。
それはそうか…父さんは…
「悟くん、しっかりやってる? この人はね、可愛い息子である君が会社を手伝ってくれて嬉しくてたまらないのよ」
「そ、そんなこと…」
黒髪おかっぱの美女…奏さんはこの研究所で社長である父を唯一手なずけているすごい人だ。
神姫バトルではライバルだった、星夜くんのお母さんでもある。
「は、はい…なんとか…これでようやく、試作機を含め、二種類四体の制作が完了しました」
僕は自分のデスクにいる、新しい神姫を奏さんや父に見せる。
「あら…あなたのお父さんより才能あるかもしれないわね、悟くん」
「な、ひどいな奏さん…悟、まだモニターテストは終えていないんだろ?」
奏さんにそう言われ、困った顔をしていた父も、僕に対してはかなり真面目で真剣な表情になる。
「モニターテストはこれから…試作機の方はテストバトルや色々で消耗しているので、今は充電中です…せっかくだから彼女たちとも話してもらったのですが…」
僕のデスクにある二つのクレイドルには、新しい神姫の試作機が二体眠っている。
僕の神姫のルセルとシュクレと何度かテスト戦闘をさせてみたら、結構あっという間に消耗してしまった。
まだまだ改善のよちはあるようだ。
「モニターテストするには、安全性を十分に確認してからだね」
「悟くんならもう十分やってると思うけど?」
アドバイスした気でいた父は一瞬で奏さんに、つっこみを入れられかなりげんなりしている。
こんな父を見れるのはなんか新鮮で、やっぱり会社の手伝いをする事になってよかったと思う。
「それじゃあ、悟…父さんをあんまり困らせるような事だけはしないでくれよ?」
「何言ってるの、悟くんの方があなたよりよっぽどしっかりしてるんだから平気よ」
父と奏さんの二人は、社内でも有名な漫才を繰り広げながら研究室を出ていった。
研究室といっても、ここはまともに使われていない研究室…いつもの僕はここで資料の作成や事務的な仕事の手伝いをさせられている。
「さとる、よかったね…奏さんに見てもらえて」
「お姉様、社長であるマスターのお父上も見て下さいましたよ」
「あんな情けない父親に見てもらってもねぇ…」
「お、お姉様…」
なぜだかあの二人の前だと出てこなかった僕の神姫。
二人は双子で、僕がこうして神姫の仕事をしたいと思うキッカケをくれた神姫だ。
「確かに奏さんに見てもらえてよかった…というか、二人はどうして奏さん達の前に出てこなかったの?」
僕が僕のデスクにいる二人を手の平に乗せ、じーっと見つめるとルセルはぷいっと顔を逸らした。
「ふふふ…お姉様は緊張してらしたのですよ、社長と奏さんに」
「そっそんな事はないよっ…」
シュクレにそう言われ、ますます僕の方を見ようとしないルセル。
「可愛いなぁ、ルセルは…初めて来た頃と全然変わらないね、二人共」
僕のその言葉に顔をぶんぶん左右に振っているルセルと、ルセルの事をにこにこと微笑ましく見ている妹のシュクレ。
この感じは初めて二人が来た頃と何も変わっていない。
そんな二人を見ていたら、二人が来てから二年半の出来事が走馬灯のように蘇ってきた。
最初の頃はある理由で神姫嫌いだった僕も、半分強制されたように神姫二人渡され毎日のように悩む日々を送っていた。
いつの間にか神姫センターに通い詰めるようになり、何度負けたか分からないけど諦めずに何度も何度もバトルした。
ついには最大のライバルだった、星夜くんにも勝つ事になってそこから僕の生活は変わった。
神姫中心の毎日だけど、友達はちゃんといる…いろんな人にであって色々勉強した。
そんな僕らの前に今度はかなりの強敵が現れた。
街中がパニックになる中、僕らは神姫と友情を信じて戦った。
無くした物もたくさんあったけど、新しく得る物もあった戦いだった。
そして、その後は…
「ちょっと、さとる…いつまで妄想の世界にいるのさ」
「お姉様が寂しがってますよ、マスター」
「だからぁ、違うって!」
いつの間にかぷんすかしてるルセルと、姉をからかうシュクレに現実に戻された。
そうだ…今はとにかく、自分の夢に向かって走らないとな…!
せっかく父さんが与えてくれた、夢へのパスポートをここで無駄にする事はできない。
「では、早速…」
僕が自分の作った新しい神姫たちに手を伸ばそうとすると、すっと僕の目の前を通り過ぎそうになって止まる飛行する神姫がやってきた。
「さとるさん、まだお仕事残ってるよ」
ツバメのようなカラーリングをした翼を持つ神姫…イストは僕が机の端にやった資料の山を翼の手で指し示す。
「やっぱりこっちを優先しなきゃダメかぁ…」
僕ががくっと肩を落としていると…
「えっと、この仕事がんばったら、ルセルちゃんがご褒美にマッサージしてくれるって♪」
髪飾りのようなアンテナを楽しそうにピコピコさせながら、にこやかにそういうイスト。
イストは僕が最初に神姫制作をするための練習で作った神姫。
今や伝説とも言われる、ハーピー型を参考に父や奏さんにかなり手伝ってもらって完成させた。
本物のハーピー型にはだいぶ劣るけど、見た目だけでは本物かどうかなんて分からないんじゃないかって思ってみたり。
見た目も本物の方が武装もカッコイイし、顔もキュートだったか…
「ね、ルセルちゃん♪」
「ばっ馬鹿…勝手なこと言うなよー!」
楽しそうなイストに顔を真っ赤にして怒るルセル。
イストが誕生してから、こんな光景がよく繰り広げられるようになった。
「さて、ルセルにマッサージしてもらうために、一仕事やっつけますかね」
「ちょ、ちょっとぉ!」
「まぁまぁお姉様、私たちはマスターがお仕事を終えるまで向こうでお話ししてましょ」
「そうよそうよ、マスターへの想いをたっぷり語ってもらわなくちゃ♪」
僕は神姫たちの楽しそうな声をBGMに、たっぷりある仕事に取り掛かり始めた………。
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