「久しぶりだ、オーベルジーヌ社に行くのは…」
そう久しぶりに話すのは赤い髪をなびかせ、さわやかな笑顔のリプカだった。
「リーシャは先週も行ったばかりなのです、リプカちゃんが前回行ったのは半年前のメンテナンスの時だったと思うのです!」
緑髪のおさげをゆらゆら揺らして楽しそうに話すリーシャ。
「リーシャ、今日はお兄ちゃんとリプカさんが行くのよ。リーシャと私はまた今度ね」
リーシャのオーナーであり、俺の妹の抹黄は少し苦笑気味でこたつ机の上にいるリーシャに話した。
「えー…いやなのです、いやなのです…リーシャも行きたいのです!」
頬を膨らませ、しょんぼりうなだれるリーシャ…諦めたかと思いきや、両腕を上げて抹黄に抗議している。
「まぁまぁ、リーシャはよく行ってるしいいじゃねぇか…まさか左藤がオーベルジーヌ社の社員の娘だったとは…」
今回は左藤に家族に俺を紹介したいと言われ呼ばれている。
少し前から左藤がオーベルジーヌ社の社員の娘と聞いていたが、中学の頃からあそこでお世話になってた俺からすればすごい偶然だった。
「赤哉さん、やっぱり彼女さんのことしか考えてないのです…」
「り、リーシャ、お兄ちゃんも初めて出来た彼女だから嬉しくてしょうがないのよ、許してあげて…」
なんだかそう言われると複雑な気持ちだ。
ずっと硬派な一匹狼でいようと思ってた俺に、まさか女が出来るなんてさ…
「ほら赤哉、大事な彼女を待たせる気か?」
「リプカまでそう言うか…みんな、ひどいなぁ」
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「七樹くん、いらっしゃい…」
「よう、左藤…おじゃまするぜ…」
よく見慣れているオーベルジーヌ社のチャイムを鳴らせば、ラフな格好をした左藤が迎えてくれた。
なんだか物凄く不思議な感じだ。
いつもはピンク髪のメイドさんが迎えてくれたのに…
「赤哉、私はメンテナンスとテスト戦闘も兼ねて来ている…さっさと研究室へ…」
俺の胸ポケットからひょこりと顔を出すリプカ。
「わかってる…まぁ、そんな焦んなよ、リプカ…」
「あら…今日はリプカさんも一緒なんですね…」
一瞬、悲しそうな表情を浮かべていた左藤。
だが、その顔は一瞬で笑顔に戻る…俺の気のせいだったんだろうか…
「久しぶりに里帰りしたいと言っててさ、左藤に誘われてたしついでにつれてきたんだよ」
「赤哉、私は堂元悟に話しがある…」
リプカは待ちきれなかったのか、俺の体をつたって床へ下り悟さんのいる研究室へ走っていった。
「何だったんだ、あいつ…」
「きっと、お父様に早く会いたかったんですよ」
そうか…と納得してみる俺。
左藤は急に遠慮なく、俺の手を取り手を繋ぐ格好に…
「わ、馬鹿…ここ、お前の実家だろう、何してる!?」
「いいじゃないですか…私たち、もう恋人同士なんですし、今日はその話をするために七樹くん来たんでしょ?」
左藤の方を見れば、夏だからかかなり薄着をしていてキャミソールから大きな胸の谷間が…
いかん、こんな時にどこ見てるんだ、自分は…
「あ、ああ…じゃあさっさとお前さんの親父さんに挨拶しようぜ、どこの研究室なんだ?」
「ここです、私のお父様はオーベルジーヌ社では神姫の武装などを作っています」
へぇ…それはすごい人なんだな。
俺は左藤の親父さんと神姫の武装について語り合いたいとすごく思ったが…
「今日は挨拶に来てんだよな…」
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「おい、堂元悟はいるか…?」
僕の研究室にすごく久しぶりに聞く声が響く。
「その声は……リプカ?」
僕が開けっ放しの扉の近くにいた小さな赤髪の女の子を見ると、彼女は僕の方へ駆け寄ってきた。
「ああ、私はリプカ…お前に作られた、黒竜型アスモデウスのリプカだ」
「久しぶりだねぇ、リプカ…前回来たのは半年前のメンテナンスの時かな?」
僕は床から僕を見上げている彼女をすくい上げ、自分の散らかったデスクのほんの少しの何もないスペースに座らせる。
「そんな事はどうでもいい、今日はどうしても貴公に聞きたい事がある…」
じっと緑色の澄んだ瞳で僕を見上げてるリプカ。
どんな話があるというのだろう…?
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「戌井 小歩です、いつも時雨がお世話になってます…」
左藤の親父さんがいる研究室に入ると、何人かいる白衣の人の一人が俺に向かって丁寧に頭を下げた。
「こ、こちらこそ、いつも左藤さんにはお世話になっていて…」
「お父様、七樹くんはとても男らしくて優しいの、そして顔もカッコイイし運動神経もバツグンで…」
「さ、左藤…そんな褒めなくていいから…」
親父さんを前に左藤にそこまで褒められると、何だか逆に物凄く恐縮してしまう。
「話しに聞いていた通りの少年で安心したよ、時雨をどうかよろしく…」
親父さんはにこりと優しく微笑むと、白衣の胸ポケットから紫髪の神姫が顔を出した。
「ごめんなさいね…この人、父親として頼りなくて…むしろいつもヘコヘコしててまるで犬みたいです」
確かに…と納得してしまいそうになったが、さすがにやめておこう。
左藤の親父さんは細くて色白で眼鏡、明らかにこういう所の研究員って感じだ。
「リアさんにそう言われたら仕方ないですね、お父様」
左藤はくすくすと笑っている。
親父さんのポケットにいるリアと呼ばれた神姫は、目力の強い表情をしたままだ。
「時雨さんがこんな男と付き合うなんて…私、すごく悲しいです…」
「リアトリス、彼の前で失礼だよ」
胸ポケットの神姫に向かって困ったように注意してる親父さん。
確かにそうかもしれない…俺の見た目は見た限りでは不良でしかないからな…
「リアさん、私は七樹くんに出会えて幸せです…だからこんな男なんて言わないで」
「時雨さん…」
リアさんと呼ばれた神姫はしょんぼりしている。
「ま、まぁ、時雨の彼氏がこんなに素敵な彼で安心したよ! 自分はそろそろ仕事に戻らないといけないので、こんな慌ただしい所だけどゆっくりしてって」
そう言うと左藤の親父さんは慌てて逃げるかのように、自分のデスクへ戻っていった。
「やっぱり頼りないですね…でも仕方ないです」
左藤はまた少し悲しそうな顔をしながらそう言った。
頼りない自分の親父さんがそんなに嫌なんだろうか?
「まぁ、いいじゃないか左藤…両親のいない俺からしたら、頼りない親父さんでもちゃんといてくれてる左藤が羨ましいぜ」
俺は左藤の肩をぽんぽんと叩きながら、なるべく優しくそう伝えた。
「そう、ですよね…ありがとう、七樹くん…」
泣きそうな顔のまま笑う左藤は、なんだかとても儚く見えた。
慌ただしい研究室、俺と左藤の間でだけはなぜだか時が止まっているようにだった。
この頃の俺はまだ知らない。
何年も連れ添ったパートナーであるあいつが、俺を心配してくれている事に…
そして、俺はまだ知らない…時雨が何か隠しているという事に…
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