声に反応して思わず振り返る。
そこには、僕の幼馴染のちまりちゃんがいた。
「ミニーソン、ひも無しバンジーを試すには屋上は高すぎるよー」
ちまりちゃんはのんきに近寄ってくる。
彼女とは親同士が昔からの友人らしく、今は親達がやっている会社同士の繋がりもあり、よく家にも来ている。
僕自身は仲の良いつもりはないのだが、彼女は僕の事を仲の良い幼馴染だと思っているらしい。
「なんだか悪い予感がしたんだけど、気のせいだったかな?」
彼女にこういう場面を邪魔されるのは何度目なのか分からない。
いつも彼女は全く状況を理解しておらず、それが逆に僕のペースを乱す。
僕がこうしているのを、彼女は何故いつも分かるのだろう?
彼女は実はエスパーか何かなのではないだろうか。
「…ちまりちゃんは授業に戻らなくていいの?」
「うん、今日の授業はちょうど終わったよー」
そんなに長い時間が経ってたのか…
校庭を見ると、部活動らしい生徒達がランニングをしていた。
「…僕はそろそろ帰るよ、じゃあね」
こんなでは、とても一人で考えをまとめる事なんて出来ない。
フェンスをもう一度乗り越え、ちまりちゃんの横を通り抜ける。
「待ってよー、これから神姫センターに行こうかと思ってたから、いっしょに行こうよ」
ちまりちゃんが横に並んで歩きながら話しかけてくる。
彼女は昔からマイペースだから苦手だ。
…神姫センターか…
ちまりちゃんの口から出たとはいえ、神姫という単語に軽い嫌悪感を覚えた。
「神姫とか興味ないんだ…そもそも好きじゃないし…」
「いいじゃんー、いっしょ行こうよー」
ちまりちゃんが横でぐずぐず言っている。
そうしていると、ちまりちゃんの鞄が突然開いた。
「ぷはー、鞄の中くるしかったー」
「なによ、あんた私たちのことが嫌いだって言うの?」
鞄の中から、水色の髪の神姫と緑の髪の神姫が現れる。
ちまりちゃんの神姫であるアウラさんと姫子さんだ。
「あんたは昔っから暗いわねー、何食べてるとそんなになるのよ」
姫子さんがまるでどこかにいるおばさんかのように話しかけてくる。
…うるさいから僕は苦手だ。
ちまりちゃんの持ち物でなかったら、とっくに蹴り飛ばしているところだ。
「ちまりちゃんー、アウラおなかすいたー」
「ちまりもおなかすいたー」
アウラさんとちまりちゃんが話している。
あの2人は本当にそっくりだ…神姫でも似るものなのだろうか?
…嫌いなものの事を考えるだけ無駄か。
「ミニーソン、せっかくだからいこうよー。ほら、ちまりとデートだよ、デート!」
「ちょ、ちょっとそれは違うんじゃないかな!?」
ちまりちゃんの突然の発言に思わず取り乱してしまった。
彼女は昔からこうだ。僕の予想をいつも覆す。
多分、遺伝子レベルで相性が合わないのだろう。
「ほらー、いくよー」
ちまりちゃんが腕を掴んで前を進んでいく。
…これは観念するしかないか。
僕は考えるのを止めて、ひっぱられるままに歩き始めた。
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