声がした方を振り向くと、そこには星夜くんが立っていた。
…こんなお店に、なんで…?
「お、お前はなんでまたちまりさんとこんなところにいるんだ!?」
星夜くんはかなりびっくりしているようだ。
手に持っていた商品をボロボロと落とす。
「わぁー、星夜くんも神姫用の服を買いに来てたんだー」
星夜くんが落としたのは、神姫用のTシャツやショートパンツや…
慌ててそれを拾おうとしている星夜くんを助けるために出てきた2人の神姫も、装備状態ではなく服を着ていた。
「マスター、いくらなんでも動揺しすぎだと思うぞ?」
海賊風の装備をしていた神姫に声をかけられて、星夜くんは顔を真っ赤にしている。
あの子はたしか水都さんと呼ばれていたっけか…?
「…マスターはその女の子の事を好きだといっていたからな」
黒い影のような神姫も、今は普通の格好をしている。たしか月夜さんと呼ばれていた気がする。
2人ともクールなイメージで、かっこよく決まっている。
「月夜、そんなこというな!」
「…それはすまない、悪かった」
星夜くんが顔を赤くしたまま怒っている。
「…で、そちらはなんだ、デートか?」
水都さんが聞いてくる。
「け、けっしてデートなんかではないんですけど…!」
「う、うん!さとるは決してデートなんかしてない!」
「…マスターもお姉さまも、同じくらい動揺してますよ?」
シュクレに痛いところをつかれた僕とルセルは、しょんぼりと肩を落とした。
ようやく落ち着いた僕たちは、神姫センターへと移動していた。
へちまガーデンにいることを星夜くんが全力で拒否したのだ。
どうやら服を買っているのを見られたのがよほど恥ずかしかったらしい。
「…で、結局の所デートなのか、それは?」
星夜くんが聞いてくる。
僕はそれを否定しようと口を開けようとしたところ、ちまりちゃんの声に阻まれた。
「うん、デートしてたんだ♪」
ちまりちゃんの一言に、硬直する僕と星夜くん。
先に口を開いたのは星夜くんだった。
「ふ、2人は付き合ってるのか?」
「ううん、違うよ?」
ちまりちゃんがちゃんと否定してくれたことに、僕は胸をなでおろす。
「…なら、俺にもまだチャンスはあるってことだよな?」
え…?
「悟!お前、ちまりさんを賭けて俺と勝負しろ!」
「え、え、えぇぇ!?」
ビックリした僕は、思わず座り込んでしまう。
「きゃっ!」
「さとる、ビックリしすぎだよ!」
バッグの中に入っていたルセルとシュクレも衝撃にびっくりしたようだ。
「ご、ごめんね…」
「ちまりさん、こいつに勝ったら俺と付き合ってくれ!」
星夜くんがちまりちゃんの手を握りながら告白している。
な、なんなんだこの展開は…
「…あんた、よくそんな事言えるわね、女の子の気持ちって考えたことある?」
「そうだそうだー」
姫子さんとアウラさんが苦情を言っている。
ちまりちゃんはちょっと迷った顔をしていたが、少し緊張したような顔で口を開いた。
「うん、いいよ」
「ち、ちまりちゃん!?」
ちまりちゃんが了承したことにびっくりする。
僕が負けたら、ちまりちゃんと星夜くんが付き合うって…!?
とんでもないことになってしまった。
バトルロンドの機械にルセルとシュクレをセットしながらも、僕は呆然としていた。
「おいさとる、しっかりしないと本当に負けるよ?」
ルセルが珍しく心配そうだ。
「マスター、経験ではまだまだ勝てません。指示をお願いします」
シュクレもいつもよりは緊張しているようだ。
…そうだ、僕が負けたら、ちまりちゃんは星夜くんと付き合うことになってしまう。
僕のせいでそんな事になるのは嫌だ。
――BattleRondo Ready...Go!
戦いは、始まった。
「はぁー!」
ルセルが気合の入った声を出しながら水都さんに斬りかかる。
水都さんは剣とナイフを両手に持ち、それに応戦する。
「少しはやるようになったな!」
水都さんはナイフをルセルに投げつける。
ナイフは左肩のスラスターに命中し、スラスターは爆発を起こす。
「うわぁぁあ!?」
左右のバランスを崩したルセルが転ぶ。
水都さんは背中の大剣を引き抜くと、ルセルに斬りかかる。
≪キィィィィン≫
「ルセルーっ!」
思わず叫んでしまう。
水都さんが大剣を振り下ろした先に、シュクレが割り込んでいた。
シュクレは左肩の盾で大剣を弾くと、剣で斬りかかる。
「…それくらいではな!」
水都さんは後ろに飛びずさると、拳銃を発砲する。
「キャァ!」
拳銃の弾は見事に装甲の隙間に命中し、シュクレのLPを削る。
…まずい、このままじゃ前と一緒だ…
「俺も忘れてるんじゃないのかぁー!?」
「…シュクレ、横にいるよ!」
「え!?」
≪ザシュッ≫
月夜さんの爪がシュクレを襲う。
シュクレの盾は完全に弾かれ、無防備なボディが現れる。
「こ…の!」
なんとか体勢を立て直したルセルが、シュクレを助けに入る。
しかし、ルセルの斧は月夜さんに弾かれ、宙を舞った。
「…さとる、どうにかならないの!?」
ルセルが叫ぶ。
「マスター、このままでは…!」
シュクレもかなり焦っている。
ごめん、僕が不甲斐ないせいで…
「…だいぶ強くはなったようだが、まだまだだな」
「やっぱりダメマスターの下じゃ強くなれないな!」
水都さんと月夜さんが、2人を見下ろしている。
こちらからの攻撃はほとんど効いておらず、ダメージは見えない。
「…さとるを…悪く言うなぁーっ!」
突然ルセルが叫ぶ。
いつもなら隠れている左目が露になる。
その赤い瞳が輝き始める。
「…なんだ!?」
「…こいつ、危険な気配がするぞ!」
水都さんが警戒して剣を構える。
月夜さんも一緒に戦闘態勢に入る。
「うわぁぁぁぁぁぁあっ!」
ルセルが飛び掛る。
しかし、突然鳴り始めたアラート音と共に、バトルロンドのディスプレイが真っ暗になる。
――Time over
――You Lose...
「時間切れ…?」
僕は、絶対に負けたらいけない戦いで、負けた。
「よっしゃぁぁぁあっ!」
星夜くんが全力でガッツポーズを決めている。
逆に僕は呆然と地べたに座り込んだ。
「…」
ちまりちゃんは何も喋らない。
ただ、僕を見つめているだけだ。
「お姉さま、大丈夫ですか…?」
「うん…ちょっと頭痛がするだけ…」
戦闘が終わると、ルセルは力尽きたように倒れこんだ。
最後に彼女が見せた姿はなんだったのだろう…?
そんなことが一瞬頭に浮かんだが、絶望に押しつぶされた。
「ちまりさん、俺と付き合ってくれるか…?」
星夜くんはちまりちゃんに話しかける。
「…うん、約束だもんね」
ちまりちゃんは微笑みながら答えた。
僕には、それが無理やり作ったものだと分かった。
なんで無理やり笑顔なんて作る必要があるんだ…?
もしかして、僕に心配をさせないために…?
「よっし、それじゃあ今日は一緒にこのまま帰ろう!」
星夜くんはちまりちゃんの手を取ると、神姫センターの入り口に向かって歩き始める。
「…ミニーソンくん、またね」
ちまりちゃんは僕に手を振りながら去っていった。
神姫センターには、僕と双子だけが残された。
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