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キャラクター紹介 |
用語
※神姫が破損する描写があるので、苦手な方はご注意ください
「今日はどういったご用件で……きゃ!」
私の体に突然信じられないくらいの電撃が流れる。
ここはオーベルジーヌ本社…お兄様の大切な会社にこんな怪しい人物たちを通すわけには……
だんだん視界が薄れていく…いくらヒューマノイドでもこの衝撃には…
「あなたがロボットだという事ぐらい、もうとっくに調査済みです…それでは、例の物を頂きます…さぁ、皆さん行って下さい!」
薄れゆく意識の中で見えたものは、前髪で両目が隠れている銀髪の男性と特徴のある制服のようなものをきた人物たちが数十人…
「あなたには、もうしばらく寝ていてもらいましょう…では、良い夢を…!」
今度は背中にものすごい衝撃が…先程の銀髪の男性に蹴られたのだろう。
私は壁際まで吹き飛ばされ、そのまま意識を飛ばした。
「ごめんなさい…どうか…どうかお兄様…無事でいて…」
「侵入者発見…侵入者発見…ただちに排除します」
レイニーが倒れた瞬間、対侵入者用のプログラムが発動した。
何体ものガードロボットが彼らの行方を阻むが、彼らはなぜだか一瞬でそのガードロボット達をも倒していく…彼らの目的は……?
「リーダー、こいつも新型なようですね…どうします?」
銀髪の男に従うようについてきていた、怪しげな制服の一団の一人がオーベルジーヌ社製の神姫一体を見つける。
「そうですねぇ…こいつはいい、ついでに頂いていきましょう…」
銀髪の男の言葉で団員の一人がその神姫を乱雑に持っていた袋に投げ入れる。
それは、クレイドルで眠っていた一体の神姫だった。
「お、おい…そこで何をしてるんだ…!?」
そこでやってきた悟が見たものはただ驚くばかりの光景だった。
研究室は一団によって荒らされ、他の社員たちは縛られ一カ所に集められていた。
「んーんー!」
「うぅーー!」
口も塞がれている社員たちは、目と言葉にならない声で悟に逃げろと必死に伝えようとしている。
「これはこれは…社長の息子さんですか…それはちょうど良い所に…」
銀髪の男がゆっくりと扉付近で固まっている悟に近付いていく。
「あなた方は神姫の武装に特殊な素材を使っているようですね…それと、その素材の精製方法とここの神姫の設計図がほしい…分かりますね?」
悟は銀髪の男にぐいと胸ぐらを掴まれる、前髪に隠れた目がちらりと覗くがその目は殺意に満ちていた。
「たとえ僕が殺されたとしても渡さない…あれは父さんと奏さんの夢の結晶だ…それをあんたみたいな奴には絶対渡さない!」
悟は体は恐怖で震えていたが、必死な思いで相手を睨み返した。
「それは困るなぁ…こちらもなるべく被害は出したくないのですが…いいでしょう、あなたを人質に頂いていきましょう」
銀髪の男の口元が不気味に笑う。
悟はこの状況をどうしようかと男に捕まれた状態のまま、必死に考えを巡らせていた。
「んぁーんぁー!」
「ひぃーひぃー!」
その光景を見ていた口を塞がれ縛られていた社員達が、我慢ならず必死に声を上げている。
「うるせんだよ、カス!」
団員たちに蹴られ殴られる社員たち…それでも社員たちは声を上げる事を止めない。
「さぁ、悟さん…あなたが私たちの元へ来て下さるというのなら、彼らの身の安全は保証しましょう…悟さんが行かないと言うのならば…」
銀髪の男が含みを持たせた言い方をすると、団員たちは捕らえられた社員たちにさらに強い音で殴り始めた。
「……わ、わかった…ただし、僕が行った所で父さんたちがお前らが望む物を渡すとは限らない…それでもいいのなら…」
悟は悔しそうに唇を噛み締めながらも、必死に強がりを言った。
自分たちと共に夢を追いかけてきてくれた社員たちにこれ以上、危険が及ぶのは耐え難かった。
「子供を愛してない親はいない…分かりますね、悟さん? あなたなら分かってるはずですよ…?」
悟を掴んでいた手を離した銀髪の男は、団員たちに目配せすると団員たちは手際よく悟も拘束し始めた。
「父さん…お願いだから、あれだけは渡さないで…」
悟はただただ悔しそうに唇を噛み締めたまま、それだけを必死に願っていた。
強く噛み締めすぎた唇からは、ついには血が滲み始めている。
「悟さま…今、助けます!」
一人の神姫が勇猛果敢に銀髪の男の元へ一直線に走っていく。
神姫の小さな体では何も出来ないとは分かっていた。
でも、この状況で何もしないではいられなかった。
彼女は自分を作ってくれた悟を助けようと必死だった。
「これはこれは、立派なナイトですね…人間相手に何が出来ると思ってるんでしょうか」
銀髪の男は自分に向かって駆け寄る赤い神姫の気配に気付いたが、そのまま動こうとせずただ不気味に笑っている。
「ガレット!来ちゃ駄目だーー!!」
顔を上げた悟にガレットと呼ばれた神姫は、悟の声など聞こえなかったかのように銀髪の男に向けて構えた武器を持ったまま高く駆け上がった。
「私に命を与えて下さった悟さまに危害を加える事など、この私が許さない…!」
ガレットの構えていた槍は、銀髪の男のふくらはぎに突き刺さるが人間からしたら大したダメージにもならない。
「悲しいですねぇ…そんなに開発者が大事ですか…神姫に親などいないのですよ、くだらない…」
男が軽く足を払うだけで床に叩き落とされてしまう、小さな小さなガレット。
その衝撃にすぐには動く事が出来ず、ただ大きな大きな人間という存在を必死に睨んだ。
「神姫という存在がどれだけちっぽけで何も出来ないか教えてあげましょう…」
男は床に倒れたままのガレットを綺麗な革靴で力強く踏み付けた。
「ガレットーーーッ!!!」
悟の叫び声が研究室に響き渡る。
その声に縛られ放置されていた社員たちも同じように大きな声を上げる。
「ほらさっさと行くんだ!」
「嫌だ、ガレット…ガレット…ガレット!!」
大粒の涙を流して大きくかぶりを振る悟を気遣う事もなく、団員たちはそのまま悟を研究室から連れ出していく。
連れ出された悟の叫びはいつまでもいつまでも大きく響いた。
「さと…る…さま…ごめ…んなさ…い…」
神姫が泣く事が出来るなら泣いていただろう。
本当は泣けるのかもしれないが、ここまでの損傷具合ではそんな事が出来るはずがない。
ガレットはただただ、自分を想って泣いてくれた悟の無事を願っていた。
「よく考えてみれば、これは面白いですね…人間のために人間に立ち向かう神姫…あなたのその勇気はこの私が買ってあげましょう」
自分が先程踏み付けたばかりのガレットのパーツを丁寧に拾い上げていく男。
彼の目は何かの企みに満ち鈍く輝いていた。
ただのパーツになってしまったガレットは、ただ一人の自分の妹の事を最後に考えていた。
同じ赤、燃えるような赤、そっくりな顔、彼女の自由を羨みつつ無事を案じていた……。
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